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「主はやてから、ある程度話は聞いていたが、状況は相当酷いようだな」 シグナムが深刻な表情で言いながらなのはの方を振り向くと、なのはは暗い表情で 膝の上に置いた手を見つめていた。 「フェイトちゃん…」 突然、ヴィータがなのはの前にやって来て、彼女の顔に両手を当てて自分の方を振り 向かせて大声で言った。 「テスタロッサは大丈夫だ、そうだろ!? なのは!!」 周囲の人間が、驚いて振り向くのも構わぬヴィータの剣幕とその真摯な視線に、なのは は眼を見開いてヴィータを見つめる。 続いて、シグナムが励ますように笑顔で言った。 「なのは、テスタロッサはかつて、お前のスターライトブレイカーの直撃にすら耐えた のだろう? ならば、前線基地一つが壊滅する程度の攻撃では死なんよ」 「シグナム。それ、フォローになってねーんじゃ…?」 ヴィータが白けた表情で言うと、シグナムは鼻白んで天井を見上げながら言った。 「む…そ、そうだな…」 なのはは首を横に振り、微笑みながら言う。 「ううん、今まで色々と大変な事はあったけど、私もフェイトちゃんも――」 なのははそこで一旦言葉を切り、二人の肩に手を置いて、再び話し始める。 「そして、みんなの力でそれを乗り越えていったんだよね。 ありがとう。ヴィータちゃん、シグナムさん」 なのはが多少ながらも力を取り戻したのを見て、シグナムとヴィータは互いに顔を 見合わせ、笑みを浮かべた。 実用性に優れた、質素な家具が並ぶ広い洋間。 部屋の中央部にはテーブルがあり、そこには二つの高級ソファーが向き合う形で配置 され、一方には恭也・美由希とヴィヴィオが座っている。 反対側に座るのは、コバルトブルー一色に統一されたパスリーブクレリックシャツと ロングスカートの、桃子と同年代で、オパールグリーンの髪に額に紋章の入った女性。 ボストンレッドソックスTシャツに迷彩色のハーフパンツを穿いた、犬耳と尻尾を 生やしたオレンジ髪の少女。 ロボットのおもちゃで遊ぶ二人の子供をあやす、黒の半袖ポロシャツに白のカジュアル パンツの、二十代前半の栗色のショートヘアーの女性。 彼女たちは、窓際に表示されている空間モニターを真剣な表情で見つめていた。 「現在のところ、基地及びその周辺で生存者が確認されたという情報は、残念ながら 入っておりません」 モニターには、演壇に立ったゲラー長官が、フラッシュを浴びながら記者や視聴者に 向けて語りかけている。 「しかし、政府は、生存者の捜索と救出に全力を尽くすべく、次元航行部隊を当該 世界へ向けて緊急派遣し、事件についても、現在総力を挙げて調査中です。 この残忍かつ一方的な攻撃の重大性、攻撃の規模と、推定される犠牲者数の多さを 鑑みて、元老院は時空管理局統合幕僚会議の諮問に同意し、管理内外世界総ての部隊に DEFCON3体制を発令。最高レベルの防衛準備体制に移行しております」 「なのは達が慌てて帰っていったのは、このためか」 恭也は、モニターを見ながら呟く。 「ごめんなさいね、久しぶりのなのはちゃん達との再会に水を差すような事になって」 ティーカップを持った、オパールグリーン髪の女性が申し訳なさそうに言うと、美由希 が首を横に振って答える。 「リンディさんが謝る事はありませんよ。むしろ、娘さんが行方不明ですごく心配でしょう」 リンディ・ハラオウン次元部局執務統括官は、硬い表情でカップのお茶を少し飲んでから、 小さく言う。 「そうね。血の繋がりはなくても、大切な娘だから…」 「フェイト…」 リンディの隣に座る、オレンジ髪の少女が不安げな表情でモニターを見つめながら 言うと、栗髪の女性が少女に問いかけてきた。 「アルフ、フェイトちゃんの気配とか何か感じない?」 エイミィ・ハラオウンの言葉に、フェイトの使い魔アルフは、目を閉じて意識を 集中する。 「ダメ、世界が違うから何も」 アルフはしばらくして目を開き、体の力を抜いて天井を仰ぎながら言った。 「でも、フェイトが助からなかった場合、契約が消滅して…魔力供給に影響も出る はずだから…」 アルフから続いて出た言葉に、リンディは期待を抑えきれない口調で言った。 「じゃあ、フェイトはまだ…」 「確証はないけど、生きてるとは思う」 アルフの言葉に、リンディにエイミィとヴィヴィオの表情が少し明るくなり、恭也 と美由希は顔を見合わせて頷いた。 「フェイトママ…今、どうしてるんだろう……?」 ヴィヴィオは、遠い世界で必死に生き残ろうと戦っている、もう一人の母親を憂え ながらぽつりと呟いた。 前へ 目次へ 次へ
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第4話「もう一人の、光の巨人なの」 「一体……何が、どうなってるんだよ? 街の人達が急に消えるなんて……はやてちゃん、ごめん。 流石に、何があったのか気になるし……ちょっと今日は帰るの遅くなるかも。」 結界に閉ざされた海鳴市。 そこには……先刻ミライ達を見つめていた黒尽くめの男以外にも、実は一人だけ先客がいたのだ。 しかしその青年には、黒尽くめの男の様な怪しい雰囲気は一切ない。 爽やかで、格好も今風の若者という感じの青年。 彼は、何故こんな事態が起こったのかを知る為、街中を走り回った。 これまでにも、怪事件の類には何度も遭遇してきた。 そしてその都度、解決してきた。 自分には、待ってくれている者がいる……彼等に心配をかけてはならない。 そう思いながら、捜索を続けていた……その矢先だった。 上空から閃光が走り、同時に轟音が響き渡る。 とっさに青年は、空を仰ぐと……そこには、自分がよく知る者達の姿があった。 「えっ……ヴィータちゃん、シグナムさん!? ちょ……どういうこと……?」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 『もしもし、はやてちゃん? シャマルです……』 「ん、どしたん?」 『すみません、いつものオリーブオイルが見つからなくて。 ちょっと、遠くのスーパーまで行って探しにいきますから。』 「ああ、ええよ。 別に無理せんでも。」 その頃であった。 海鳴市の、結界から外れた位置にあるとある民家。 そこで、車椅子に乗った一人の少女――八神はやてが、調理を進めていた。 彼女は家族と思わしき人物――シャマルと、電話で会話をしながら作業をしている。 キッチンに出ている材料等を見る限り、相当の大人数らしい。 はやても含めて、大体5~6人というところだろうか。 『出たついでに、皆を拾って帰りますから。 ただ、アスカさんだけはまだお仕事中かもしれないですけど…… なるべく急いで帰りますね。』 「あ、急がんでええから。 気をつけて帰ってきてな。」 『はい。』 はやては、家族達が皆無事に帰ってくるようにと言い、電話を終える。 今まで、ずっとはやては一人で暮らしていた。 そんな孤独な彼女に温もりを与えてくれたのが、シャマル達だった。 彼女達は色々と訳ありで、つい先日にこの家で暮らすようになったばかりである。 はやてにとっては、彼女達の存在が何よりも嬉しかった。 ヴィータ、シグナム、シャマル、ザフィーラ。 誕生日の夜、自分の元に現れてくれた騎士達。 そして、もう一人。 彼女達と出会ってからしばらくした日に出会えた、あの人…… 「あ、いけない。 雨降ってきちゃった……ヴィータちゃん、シグナム。 洗濯物入れるの、手伝ってくれない?」 「おう、任せとけ。」 それは、ある日の夕暮れ時だった。 八神家に住まう騎士達――なのは達の前に現れたヴィータ達は、干していた洗濯物を取り込んでいた。 降水確率がギリギリ降るか降らないかという数値だった為、洗濯物を外に干していたのだが…… 不運にも、その賭けには負けてしまった。 急いで洗濯物を家の中に入れ終え、皆が一息つく。 そんな彼女達へと、はやては温かい飲み物を差し出してあげた。 「皆、おつかれさま。」 「ありがとうございます、主はやて。」 「ふぅ……温まるなぁ。 やっぱ、あんまりギャンブルはやるもんじゃねぇな……」 「うむ……まあ、この程度なら大丈夫だ。 家の中に干しておけば、すぐ乾いてくれるだろう。」 「そやね……あれ?」 「はやてちゃん、どうしたの?」 「今……何か、外光らんかった?」 はやては庭を指差しながら、騎士達に問う。 どうやら四人とも、外の様子は見えていなかったらしく、その質問には答えられなかった。 雷でも落ちたのかと思ったが、それにしては何か妙だ。 落雷の音が、全然聞こえてこない。 自分の気のせいだったのだろうか。 そう思いながら、はやてが皆の手伝いを始めようとした……その時だった。 ドサッ 「え……!?」 「今、何か音が……!!」 音は、聞こえてきたは聞こえてきた。 しかしそれは、決して落雷なのではない。 何かが地面に倒れ落ちたような、そんな感じの音だった。 嫌な予感がしたはやては、すぐにベランダへのガラス戸を開いてみる。 すると……そこでは、予想だにしていなかった事態が待ち構えていた。 「嘘……人が倒れとる!? シグナム、ザフィーラ!!」 「心得ております!!」 庭ではなんと、一人の男性がうつ伏せで倒れこんでいたのだ。 見た所、20代前半の青年……何処かの制服らしき服装をしている。 完全に気を失ってしまっているようであり、ピクリとも動かない。 すぐにシグナムとザフィーラが庭へと飛び出し、彼を家の中に入れた。 一体、この男が何者なのかは分からない。 だが……このまま放っておくわけにもいかなかった。 すぐにヴィータはバスタオルを持ってきて、青年についた土や泥をふき取る。 その後、シャマルは彼に怪我がないかどうかを見た。 どうやら、外傷は一つも見当たらないようだが…… 「う……」 「あ、気がついた?」 「……ここは……? そうだ、皆は!! グランスフィアはもう……!!」 青年は勢いよく起き上がり、周囲を見回した。 そして、己を取り巻く環境が一気に変化したことに気づくと、ただ呆然とするしかなかった。 自分は確かに、人類の未来をかけた最終決戦に臨んでいたはずだった。 その最後、暗黒惑星の崩壊によって発生したブラックホールに呑まれ…… 「……どうなってるの、これ?」 「えっと……これってもしかして?」 「ええ……私達と同じく、異なる世界から現れたという事でしょう。」 「……異なる世界?」 「うんと、ちょっと混乱してるみたいやね。 とりあえず状況を整理していかんと……名前、聞かせてもらえます?」 「あ、うん。 俺はアスカ、アスカ=シンっていうんだけど……」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「ウルトラマン……だって!?」 「え……?」 ヴィータは、姿を変えたミライ――メビウスの正体に、驚かされていた。 その様子を見て、メビウスは少しばかり考えた。 この反応……ウルトラマンという単語を始めて聞いた人がするものじゃない。 この驚き様は、もしかすると…… 「まさか……君達は、ウルトラマンを知っているの?」 「……管理局の連中に、答える義理はねぇ!!」 メビウスの問いに答えることなく、ヴィータは襲い掛かってきた。 勢いよく、グラーフアイゼンをその脳天めがけて振り下ろす。 しかしメビウスは、バック転してその一撃を回避。 そのまま真っ直ぐに拳を繰り出し、ヴィータの胴体を狙った。 無論、力の加減はしてある……相手は自分よりも幼い女の子。 幾らこんな事件を起こしたとはいえ、優しいメビウスには全力でかかることはできなかった。 だが、ヴィータはただの少女にあらず。 その一撃を障壁で受け止めると、そのまま空へと飛んだ。 (なんで……なんで、ウルトラマンなんてのがここで出てくるんだよ!! でも、あいつの言ってたダイナやティガってのとは違うみたいだけど……) 「待てっ!!」 「ちっ……空まで飛べるようになってんのか!!」 メビウスが自分を追って空を飛んできた事に対し、ヴィータは舌打ちをし毒づく。 一番の雑魚かと思われていた相手が、実は一番厄介な相手だった。 自分達の判断ミスを呪いつつも、やむをえずヴィータは応戦に移ろうとする。 しかし、この時……彼女はある事に気づいた。 自分が持っていた筈の書物が……闇の書が、ない。 「闇の書がない……!? そんな、一体どこで……」 『ヴィータちゃん、闇の書は私が回収してあるわ』 『!! シャマル、来てたのか!!』 『ええ、さっきシグナムと一緒にね。』 念話でヴィータへと話をつなげてきたのは、シャマルだった。 彼女は少しばかり離れたビルの屋上で、ヴィータ達同様に魔道の衣服に身を纏っている。 その片手に携えられているのは、闇の書と彼女達が呼んだ書物。 もう片方の手は、指輪型のデバイス――クラールヴィントを発動させていた。 その様子を見る限り、何かしらの術を使う準備を進めているように見える。 しかしこの時……彼女は、気づいてしまった。 この結界内に入り込んでしまった、イレギュラーの存在に。 「え……!? まさか……」 『どうした、シャマル?』 「誰か……結界の中に、取り残されている人がいる!!」 『何だって!?』 シャマルが建っているビルから見える位置に、一人の青年が立っていたのだ。 遠目でその姿ははっきりとは見えないが、魔力は感じられない……完全な一般人だ。 このままでは、無関係な人間を戦闘に巻き込むことになってしまう。 何とかしなくてはならない……シグナムがとっさに動こうとする。 だが、そこへと何者かが切りかかってきた。 その正体は、ユーノによって救出され、バルディッシュの破損も回復させたフェイトだった。 「おおおおおぉぉっ!!」 「くっ!!」 バルディッシュとレヴァンティンが、火花を散らせながら激しくぶつかり合う。 時間をあまりかける訳にはいかない。 双方が同時に動いた。 フェイトは己の周囲に魔力を収束させ、金色に輝く魔力弾を生み出す。 それに対しシグナムは、紫電一閃を放ったとき同様……レヴァンティンへと、弾丸を放り込む。 直後……その全身が、魔力によるオーラで包まれる。 「レヴァンティン、私の甲冑を!!」 「打ちぬけ……ファイアッ!!」 フェイトの放った魔力弾――フォトンランサーが、真っ直ぐにシグナムへと迫る。 しかしシグナムは、微動だにせず……防御も回避もしないで、フェイトを見つめていた。 そして、フォトンランサーがシグナムを貫こうとした……その瞬間だった。 彼女に命中したフォトンランサーが、次々に弾かれていったのだ。 全くの無傷……この事態に、流石のフェイトも驚きを隠しきれないでいる。 「魔道師にしては悪くないセンスだ。 だが、ベルカの騎士に一対一を挑むには……まだ足りん。 レヴァンティン、叩き切れ!!」 「っ!!」 魔剣から弾丸が排出され、刀身全体が膨大な魔力に覆われる。 二度目の必殺剣――紫電一閃。 フェイトはとっさにバルディッシュでそれを受け止めるが……先ほどと結果は同じだった。 バルディッシュに皹が入り……そしてフェイトは、後方の高層ビルへと激突する。 「フェイトちゃん!!」 『大丈夫ですか、マスター?』 「うん……ありがとう、バルディッシュ。 それより、今の……」 『ええ、あのデバイス……』 「あの弾丸の様なものを使うことで、一時的に魔力を高めているんだ……」 フェイトは、デバイスの性能自体に相手と大きな違いがある事に気づいた。 そしてそれが、圧倒的不利を齎している事も……バルディッシュには悪いが、気づいていた。 状況は、完全なシグナム優位であった。 一方、離れた位置で戦っているアルフとザフィーラも、ザフィーラの優勢。 ベルカの騎士――ヴォルケンリッターが、総合的には押していることになっていた。 そう……優勢2、劣勢1の総合的な結果で。 その劣勢が誰かは、もはや言うまでもなく…… 「ハァッ!!」 「ちぃっ!!」 『Panzerhindernis』 とっさに防壁を出現させ、ヴィータはメビウスの蹴りを受け止める。 ここまでの勝負は、完全なメビウスのペースであった。 話に聞いた以上の力を持つ、ウルトラマンの能力。 自分達ベルカの騎士と互角か、もしくはそれ以上かもしれない。 メビウスの重く強烈な蹴りを受け止めながら、ヴィータはそう実感していた。 ここで吹き飛ばされてはいけないと、懸命に踏ん張ろうとする。 しかし……その瞬間だった。 何とメビウスは、急激なスピードで錐揉み回転をし始めたのだ。 「まさか!?」 「ハアァァァァァァァァッ……!!」 即座に、メビウスが何をしようとしているのかをヴィータは理解する。 しかし……分かったときには、すでに遅かった。 強烈な回転によって摩擦熱が生じ、メビウスの脚部から炎が出現する。 そして……障壁は破壊され、グラーフアイゼン越しにヴィータへと蹴りが炸裂する。 かつてメビウスが、光線技の一切通用しない強敵と合間見えたときに編み出した必殺の一撃。 後には、無双鉄神すらも打ち砕くほどの攻撃となった蹴り――メビウスピンキック。 ヴィータの障壁とて、決して柔な代物ではないのだが……相手が悪かった。 このままでは、先ほど吹っ飛ばされたフェイト同様に自分もビルに叩きつけられるだろう。 急いで、ヴィータは体勢を立て直そうとする。 だが……ここで思いもよらぬ攻撃が、彼女に襲い掛かってきた。 メビウスに集中しすぎていた為に、その存在を忘れていた伏兵――ユーノ。 彼の放ったチェーンバインドが、ヴィータを束縛したのだ。 攻撃力こそこの中では最低ではあるものの、サポート役としては最強のユーノが放つバインド。 先程アルフが使ったものよりも、性能は恐らく上。 「くそっ……これじゃ、さっきと同じじゃねぇかよ……!!」 「ありがとう、ユーノ君。」 「いえ、ミライさんが注意を引き付けてくれていたお陰です。 ……それじゃあ、君達の事を教えてもらえないかな? 今は、さっきと違ってもう助けに入る人もいないみたいだしね。」 「誰が言うか……!!」 ヴィータは力ずくで、拘束から逃れようとする。 鎖が皮膚に食い込み、血が滲み出始める。 それを見て、メビウスとユーノは驚き、さすがに拘束を緩めるべきではないかと感じた。 しかし……逃げられては元も子もないので、それはできない。 何とかして結界を破壊さえできれば、強制転移させてアースラへと連行できるのだが……ユーノにそれは不可能だった。 この結界は、ユーノが扱える術では破壊しきれない代物だったのだ。 フェイトもこの手の術に関しては、やや不得手である。 そうなると、アルフかミライかに頼るしかないが…… 『アルフ、ミライさん、何とか結界は破れない?』 『あたしもさっきからやってるんだけど、この結界滅茶苦茶硬いんだよ!!』 『僕はわからない……メビュームシュートなら、もしかしたらいけるかもしれないけど……』 『皆、私がやるよ!!』 『なのは!?』 意外な事に、この問いに答えたのはなのはだった。 確かに彼女の魔法には、結界破壊の効果を持つものが一つだけある。 しかし……手負いである彼女に、その術は危険ではないだろうか。 いや、それ以前にレイジングハートの損傷が深刻すぎる。 あの術――スターライト・ブレイカーを、果たして打てるのだろうか。 例え打てたとしても、ほぼ確実にレイジングハートは崩壊するだろう。 だが……それにもかかわらず、全員が口から出かけた「やめろ」の一言を引っ込めた。 なのはもレイジングハートも、覚悟を決めた上でこの決断を下したのだ。 邪魔をする権利は、自分達にはない。 それに、これがベストな手段であることには違いない。 『分かった……出来るだけ、急いで。 この子をすぐに転送させないと、怪我が……!!』 『うん!!』 ユーノはヴィータに回復術を徐々に施し、彼女が倒れないようにする。 しかしそれでも、出血した分の血は戻らない……貧血・失血で倒れるのも時間の問題だろう。 それはヴィータ自身にも、十分分かっていた。 だが……彼女の意思は、極めて固かった。 間違ったって、言ってやるものか。 例えどんな目に合おうが、自分は仲間を守り抜く。 大切な主を救う為にも、味方を裏切るような真似は絶対にしない。 ヴォルケンリッターの全ては……仲間と、そして主の為にある。 「この程度で……やられてたまるかってんだっ!!」 「どうして……どうして、君はそこまで……!!」 メビウスは、ヴィータから何か強い信念の様なものを感じ取った。 これまで戦ってきた、邪悪な侵略者達とは逆……正義すら感じさせられる。 そう……これは、自分の仲間や兄弟達と同じ。 大切なものを守りたいという意思ではないか。 それを悟った時、メビウスは何が何でもヴィータ達を説得しなければと考えた。 彼女達の行動は確かに悪ではあるが、その悪を行うに値する理由があるに違いない。 メビウスは、ヴィータに問いかけようとする。 しかし……その時だった。 「ヴィータちゃん!!」 「え……!?」 ヴィータの賢明な思いが、天に届いたのだろうか――最もその返答は、天とは正反対からではあったが。 地上から、ヴィータを呼ぶ誰かの声が聞こえてきたのだ。 それに思わず、皆が動きを止めてしまう。 ヴォルケンリッターの表情が、一気に変わる……無理もない。 その声の主――結界内に取り残された男は、自分達がよく知る者。 大切な家族の一人――アスカ=シンだったからだ。 「今、助けるから……!!」 アスカはポケットから、手の平サイズの何かを取り出した。 人面が掘られた、石とも煉瓦とも取れぬ謎の材質で作られたオブジェ。 光の力を得たアスカが、その力を解放する為に使う道具――リーフラッシャー。 アスカはそれを高く掲げ、起動させた。 オブジェから突起が飛び出し、そしてその先端から眩い光が溢れた。 それを見た瞬間、誰もが既視感に見舞われる。 当然である……この光景は、先程ミライがメビウスへと変身した際と、全く同じなのだから。 そして、この後の展開も予想できていた。 特に……ヴォルケンリッターの四人には。 ――俺のいた世界には、ウルトラマンっていう凄いヒーローがいたんだ ――凶暴な怪獣や邪悪な侵略者から、人々を守る為に戦ってくれて…… ――俺が知ってるウルトラマンは二人いるんだけど、どっちも凄かったよ。 ――まあ俺的には、ティガもいいはいいんだけど、やっぱもう一人の方だよな。 ――うん、もう一人のウルトラマンで、名前は…… 「ウルトラマン……ダイナ!?」 「そんな……アスカ、まさかお前が……!!」 「デヤァァァッ!!」 メビウスと似た姿を持つ、光の戦士。 アスカが得た、邪悪を打ち倒す為の力――ウルトラマンの力。 それによってアスカは、その姿を変えた。 光の戦士――ウルトラマンダイナに。 ダイナは凄まじいスピードで飛び上がり、そのまま手刀を繰り出した。 チェーンバインドが切断され、ヴィータの拘束が解かれる。 「……アスカ、お前……」 「……黙っててごめん。 ウルトラマンだってこと、中々言い出せなくて……」 「……構わん、隠し事ならお互い様だ。 しかしこうなった以上、全てを話し……全てを聞いてもらわねばならないな。」 「そうだな……助けてもらったんだし、あたし達の事も話さなきゃ不公平だ。 ただアスカ、はやてにだけは……」 「分かってる……兎に角今は、この場を切り抜けよう。 俺の相手は……もう、決まっているしな。」 ダイナは、その視線をメビウスへと向けた。 二人とも……特にメビウスの方は、自分が今置かれている状況に混乱させられていた。 自分の目の前に立っているのは、紛れも無く同じ存在であるウルトラマン。 異世界で、まさかウルトラマンと遭遇しようなんて、夢にも思っていなかった。 その実力は未知……どれだけの力があるか分からない。 ダイナが構えを取り、戦闘態勢に入る。 それに対するメビウスはというと、とっさに構えこそとったものの、自ら進んで戦おうとは思っていない。 何故、自分達が戦わなければならないのか……それを、まず聞き出そうとした。 「貴方は一体……?」 「ウルトラマン……ウルトラマンダイナだ!!」 「ダイナ……どうして、こんな真似を?」 「俺も、事情は分かってないんだ。 けど……そんな事は、はっきり言ってどうでもいい。」 「え……?」 「守りたい人を守るために戦う、ただそれだけだ!!」 まっすぐに、ダイナが拳を突き出してくる。 メビウスは体を捻ってそれを回避し、そのままの勢いで回し蹴りを繰り出した。 しかし、ダイナはそれをとっさにガードする。 そして無防備となったメビウスの胴体へと、蹴りを叩き込んだ。 格闘戦においては……ダイナの方に、どうやら分があるらしい。 「ぐぅっ!?」 「勝負だ、メビウス!!」 「ダイナ……やるしか、ないのか……!!」 ウルトラマンメビウスとウルトラマンダイナ。 本来ならば、決して合間見えることの無かった、似て非なる存在である二人のウルトラマン。 奇しくも、大切な人を守りたいという同じ願いから変身を遂げた二人。 今……その決戦の幕が、開かれようとしていた。 戻る 目次へ 次へ
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「将来の夢はなんですか?」 小学生にとって、教師のその質問はごくありふれたものであるだろう。 多くの子供達は多様な、しかしある程度定例化した答えを答える。 『お巡りさん』『歌手』『スポーツ選手』『お嫁さん』―――。 いくつもの夢があり、それぞれに輝きがあるものだ。 太陽の光のように、美しいが誰もが毎日見ている、普遍的な輝きが。 ただ、その中に誰も見た事のない光を放つ夢があった。 一人の少女が抱く、黄金の輝きを放つ夢が。 周囲の同年代の子供達の中で、世界の常識に照らし合わせて『その中で異物であると削ぎ落とされてしまう夢』 誰のものとも違う、奇妙とも言える『偉大なる夢』を抱く少女が一人。 「この高町なのはには『夢』があるッ!!」 高町なのは。現在、小学三年生。 彼女が、まだ幼くして自らの黄金のような夢を自覚するのには、この歳から更に過去へと遡らなければならない。 なのはがまだ小学校に入る前、その時に転機は訪れた。 なのはの家族はまさに理想的と言ってよかった。 母は優しく美しく、父は若くて強い。二人の兄と姉は妹であるなのはを守り、育む事に全力であったし、そんな家族の誰かに不幸が訪れるような悲劇的事件も起こる事はなかった。 誰もが羨む平穏な生活の中で、なのはは育っていった。 ただ一つ、この素晴らしい環境の中でなのはの心に影を落とすものがあったとするなら、それは些細な『疎外感』であっただろう。 まだ年若い父と母の夫婦愛は新婚のような雰囲気を保っていたし、運動音痴のなのはと違い身体能力に優れた兄と姉は我流の剣術を共に競うように鍛錬し合っていた。 なのはと他の家族の間に不仲や壁が存在したわけではないが……それでも、父や母、兄や姉が、自分とは違う特別でより強い絆によって結ばれているような感覚を覚えていた。 自分だけが、一家の輪からほんの少しだけはみ出ている―――そんな『疎外感』が常になのはの中にあったのだ。 いつしか、なのはは内向的な性格に育っていった。 人と合うと目を背けたり俯いたりするような、あからさまに暗い性格ではなかったが、まず他人の顔色を見るような癖が付くようになってしまった。 好きな事は、友達と外で遊ぶ事より、CPUや電子機器といった機械を弄る事。 愛らしい容姿が、なのはをジメジメとした暗い雰囲気から遠ざけてはいたが、彼女がいつか成長した時人付き合いの苦手なタイプの人間になってしまう事は誰が見ても時間の問題だった。 しかし、ある事件がきっかけでなのはは劇的に変わる事になる。 いつものようになのはが公園で、別に誰かと遊ぶわけでもなくブランコに乗って蕾も付いていない桜の木を眺めていると、いつの間にか隣に知らない女の人が座っていた。 いつの間に座ったのか? 何処から来たのか? わからなかったけれども、女の人はなのはより年上だがそれでもまだ年若い少女のようだった。 何故隣に座るのかなのはが尋ねると少女は、 『自分と同じようにひとりぼっちでさびしそうだな』と思っただけだ、と答えた。 その言葉が、寂しそうな子供を慰める安い同情の言葉だと思うほどなのはは捻くれてはいなかったし、事実少女はそんな同情心など欠片も抱いていなかった。 なのはも感じたのだ。『この人も、きっとひとりでさびしいんだろな』と。 それからなのはは、少女と少しの間だけお話をした。 なのはは自分の素敵な家族の事や、その日起こった事を話し、少女がこの町の人間ではなく、何かするべき事の為にここへ来た事を知った。 少女の言う『やるべき事』の為に、話せる時間はほんの少し。この公園で約束もなく会って、数十分話すだけだったが―――なのはにとって、このまだ名も知らない少女との時間はひどく心休まる時間だった。 そして、多分そう長い時間ではなかっただろうが、ある日唐突に少女は元の場所へ帰る事になった。 この町でやるべき事が終わったらしいのだ。 結局、それが何であったのか、なのはは最後まで知らなかった。 別れを告げた少女は、ほんの少しだけ寂しそうな色を瞳に浮かべたが、いつもと同じ優しい笑顔のままだった。 なのはは、彼女と付き合った僅かな時間を噛み締め、涙を堪えて名前を尋ねた。 少女は答える事無く、ただ黙って公園の木を指差した。 その木には、まだ蕾すら付いていなかったというのに―――『桜の花』が咲き誇っていた。 ただ一日限り咲いた桜の花弁は、別れを告げるように、またなのはを優しく包み込むように風に舞って美しく降り注いだ。 気が付くと、少女はもう何処にもいなかった。 まるで『魔法』を使ったように。 彼女は『魔法使いの少女』だった。 その事実を、もちろんなのはは知らない。しかし―――。 有り得ない桜の花を、異常気象や何らかの科学的要因があったのだと理屈付けて納得する方法は幾らでもあったが、なのはは何故かそれが『魔法』だったのだと漠然と感じていた。 誰も信じない。誰もが鼻で笑う。しかし、なのはは信じた。それこそが重要だった。 少なくとも、あの時あの少女が、この広い世界にある辺鄙な町の小さな公園の片隅で座り込む、小さな少女の小さな悩みを見つけてくれたのは確かだった。 この世界で、より大きな不幸や事故は幾らでも転がっているというのに、あの少女は高町なのはの小さな苦しみを見逃さなかったのだ。 そして、自らのやるべき事と同じくらい大切に、なのはとの時間を過ごしてくれた。 ひとりの人間として敬意を示してくれるつき合いをしてくれた。 あの少女の『心』が、何よりも『魔法』のようになのはの心をまっすぐにしてくれたのだ。 もうイジけた目つきはしていない……。 彼女の心にはさわやかな風が吹いた……。 少女はなのはを『魔法に触れさせない』という態度を貫き、その力をほとんど見せなかったが……高町なのはが持つ本来の魔法の素質は、たった一度だけ見せた『花の魔法』を切欠に、静かに目覚め始めていた。 彼女に秘められた類稀なる魔法の素質が目覚めた今、なのはの気持ちを止める事は出来ない……。 彼女の中に生きるための目的が見えたのだ。 こうして『高町なのは』は、 ミリオンセラーのアイドル歌手に憧れるよりも―――『魔法少女』に、憧れるようになったのだ!! 「……と、いう事があったの」 「いい話だねえ」 「まあ、なのはの夢については分かったわよ。……でもだからって、授業中に立ち上がって叫ぶのはやりすぎじゃない?」 「すごい迫力だったもんね。先生、ちょっと泣いてたよ」 「う……っ、ごめんなさい」 お昼休み。アリサとすずかの二人の親友と一緒にお弁当を囲んだなのはは、前の授業時間に自分の仕出かした事を思い出して冷や汗を浮かべた。 「相変わらず、あんたって唐突に性格変わるわよねえ。ま、その理由も今分かったけど」 「うん、なのはちゃんって一年生の頃から『魔法少女』の夢を話してるけど、そんな理由があったなんて知らなかったな」 「……でもさ、真剣なのは分かったけど、だからこそ余計に厳しくない? 現実的に考えて『魔法少女』なんてさ」 笑顔のすずかに対して、眉を顰めるアリサの言葉に、なのはも苦笑した。 アリサがなのはの夢をバカにしているワケではないのは十分理解している。そもそも『魔法少女』という夢が、あまりに現実的ではない事は小学生のなのはにも分かっている事なのだ。 まだ子供のなのはがそんな夢を語っても、周囲の大人は本気にはしないだろう。 しかし、なのはが本当にその夢を目指していると理解したからこそ、アリサは心配するのである。 現実を見ろとか、無理だとか言うつもりはない。ただ、とても難しい目標である事は確かなのだ。 それが分かるからこそ、なのははアリサの言葉に素直に頷く。 「うん、分かってるよ。世の中に『魔法少女』なんて職業はないし、実際に『魔法』なんて存在する可能性も少ない……」 「ない、とは言い切らないのね」 「それに関してはね、わたしもなんとなく『あるんじゃないか』って感じちゃうんだ。 ただ、それはとは別にわたしは目指す夢は『魔法』という力で誰かを助けるものじゃあない。例えば杖を振って誰かにドレスをあげたり、食べ物を出してあげたりする……そういう単純な『与える幸せ』じゃないと思うの」 なのははいつしか視線を上げ、未だ入り口すら見えない夢の先を見据えていた。 「あの日、あの人はわたしに魔法を掛けたわけじゃない。ただ話を聞いてくれただけだった。 でも、あの時交わした言葉の一つ一つ、あの人の笑顔一つ一つが、わたしにとって『魔法』だった。たくさんの人が住むこの町で、たった一人の小さなわたしを見つけて、そして悩みを消してくれた―――わたしも、あんな『魔法』が使えるようになりたい」 「だからわたしは、『魔法少女』になろうと思う!」 迷いなど欠片も無く、そう力強く断言するなのはの横顔に、アリサとすずかはいつしか呑まれていた。 この『高町なのは』という少女と出会い、初めて『魔法少女になる』と話したのを聞いた時、二人は当然戸惑った。 『魔法少女』! この子はまじにそんな事に憧れているのか!? そんな非現実的な事に関わろうとしているのか!? こいつ、正気なのか? とも思った。 ―――しかし。 なのはの話の中には『正義の心』があったのだ。 アリサもすずかも、良くも悪くも今時の子供である。より現実的な視点や考えを持とうという意思がある。 こんな話を大真面目にするなんて恥ずかしくて出来ない同年代の子供達が多い中で、なのはの真っ直ぐな『正義への意思』は黄金のように輝き、二人を惹きつけて止まないのだった。 「……ふ、ふん! だから、そうやって自分の世界に唐突に入るの、や、やめなさいよねっ」 なのはの決意を秘めた凛々しい横顔に見惚れていたアリサは、我に返ると慌てて赤くなった頬を誤魔化すように捲くし立てた。 「でも、そういう時のなのはちゃんって、なんだかカッコいいよね……」 一方のすずかも、頬を染めながら少し恥ずかしそうに笑っている。 二人の親友は、普段の少しドジなほんわかとしたなのはが好きだったが、その穏やかな顔の奥に秘めた別人のように強い意志の力に憧れを抱いてもいるのだった。 「わたしにしか出来ない事があるとしたら、それはきっとコレなんだと思う。そう自信が持てるッ」 この時、なのはは『運命』のようなものを感じていた。あるいは、あの日あの少女に出会った時から。 その『運命の瞬間』までの全てが、その時に備えてのものなのだと。 なのははこの奇妙な確信を抱く『運命』に対して『覚悟』をしていた。 『覚悟』は『絶望』を吹き飛ばす。それが自信へと繋がるのだ。 そして、この日の放課後、学校からの帰り道で―――ついに、なのはは運命に出会うのだった。 『助けて……』 運命の声を、聞いたのだ。 to be continued……> 『第一話、後半へ』 目次へ 次へ
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逆境をチャンスに変え、謎の襲撃者ヴィータを撃退したなのは。 結界は解除され、急行したフェイトやユーノ、アルフとも合流し、彼らは再会を喜び合うのだった。 しかし、団欒の時間も束の間。新たな結界が四人を戦闘空間へと隔離する。 そこで再び襲い掛かって来たのは、ヴィータの仲間であるシグナムとザフィーラであった。 今宵、二度目の死闘が開始される―――。 ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ 「仲間の敗北は、仲間が返す―――覚悟して貰うぞ、幼い魔導師」 「……こいつぁ、なかなかグレートな状況なの」 ブレイドタイプのデバイスを構えた女戦士が放つヴィータ以上のプレッシャーを前に、しかしなのはもまた顔色一つ変えずに佇んでいた。 普段の年相応な少女の顔を消し、歴戦の猛者の如き迫力を放つなのはを見て、ユーノとフェイトは既視感を覚えていた。 (この……なのはから感じる『凄み』! 普段のなのはじゃない! 私やアルフと戦った時と同じ、なのはの中にある『何か』のスイッチが入ったんだ……ッ!) それは、なのはが『覚悟』を決めた時の姿だった。 敵を倒す時、『必ずやる』と決めた時、いつもなのははやり遂げる『凄み』を持っていた。 フェイトは普段の優しいなのはの方が好きだったが、今この状況で、今の状態のなのはほど頼もしい存在はいないッ! そう確信もしていた。 「な、なのは……」 「フェイトちゃん。私はこの結果を破壊する為に『スター・ライト・ブレイカー』の用意をしなくちゃあいけない。 だから、ユーノ君達と協力してあの二人と戦って。もちろん、倒しちゃってもいいよ……」 シグナム達を睨んだまま、振り返りもせずに言い切るなのはの自信に満ち溢れた姿。 その姿を見る度に、フェイトは憧れを抱き、同時に自分がどうしようもなく弱気になるのを感じていた。 なのはは偉大だ。とても同い年の少女とは思えない。そんな彼女の『心の強さ』に、フェイトはいつも縋りそうになってしまうのだった。 「で、でも……なのはァ……。 あ、あんまり私に期待しないでよ……私なんかに。結界は私が壊すから、なのはが戦った方がきっと勝ち目も大きいと思うし……」 かつて『母親の為』ならば冷徹な戦闘マシーンのようになれたフェイトも、その母を失ってからはもはやあの時の仮面を被れなくなっていた。 すぐ傍に、なのはという大きな存在がいる事も原因だ。 泣き言を漏らすフェイトに振り返ると、なのははそっと手を伸ばす。 フェイトは殴られると思った。なのはが自分を叱責する時、いつもまず一発入れてから目を覚まさせるのだ。 しかし、なのはは殴る事などせず、フェイトの顔に両手を添えると、互いの額をコツンとつき合わせて視線を合わせさせた。 あまりに近いなのはの顔に、そして覗き込む思わぬ優しい瞳に、フェイトの頬は赤く染まる。 「フェイト、フェイト、フェイト、フェイトちゃァ~ん。 わたしはフェイトちゃんを信じてるの。わたしがいつも怒ってる事なら……『自信を持って』 フェイトちゃんのスピードや魔法は、その気になれば何者にも負けない能力なんじゃあない? そうでしょ? 『自信』を持っていいんだよ! フェイトちゃんの魔法をね―――」 「そ……そうかな?」 「そうだよ」 たったそれだけのやり取りの中で、フェイトの中にみるみる『自信』が湧いてくるのを感じた。 使い魔の自分を差し置いての会話に、面白くなさそうな表情をするアルフ。彼女はフェイトの支えになっているなのはという少女が苦手だった。 「……茶番だな。お前は戦わないのか? そこの情けない小娘に任せて、お前はどうする?」 なのはとフェイトの会話を聞いていたシグナムが嫌悪を露わに吐き捨てる。 自分の意思で戦えない者は、彼女にとって未熟者でしかなかった。 「フェイトちゃん、任せたよ」 「わ、わかったよ、なのは!」 なのははシグナムの挑発を無視し、SLBを撃つ為に手ごろなビルの屋上まで移動していく。 完全に背を向けた無防備な後姿を隠すように、バルディッシュを構えたフェイトが立ち塞がった。 「アナタの相手は、私です」 「貴様はあの魔道師の部下か?」 「違う! 私は……『友達になりたい』と、思っています」 「……茶番だ」 シグナムは吐き捨て、次に瞬間フェイトに襲い掛かった。 同時に、アルフとユーノもザフィーラと戦闘を開始した。 前へ 目次へ 次へ
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番外編「ロストロギアなんてレベルじゃねーぞ!!」 ある日の昼、なのはは何気ない質問をミライにした。 「そういえば、ミライさんの左腕にあるデバイスって、なんて名前なんですか?」 「ああ、メビウスブレスの事だね。 デバイスとはちょっと違うけど……僕にとってはとても大切なものなんだ。」 「確かに、攻撃や防御に普通に使えてるし……」 「何より、メビウスに変身するのに使うからね。」 ミライは左腕のメビウスブレスを、皆に見せた。 ロストロギアと認定されてもおかしくない、超高性能な道具。 ウルトラの父がくれた力。 「最初に調べた時は、驚いちゃったよ。 物凄いエネルギーの塊だったしね。」 「でも、メビウスブレスよりも更に凄い道具って、いっぱいありますよ」 「え、そうなんですか?」 「うん、例えばナイトブレス。 僕も一時期使ってたんだけど、使える技とかはメビウスブレスとあまり変わらないんだ。 でも、単純なパワーならナイトブレスの方が上だったね。 それにナイトブレスの最大の特徴は、メビウスブレスと合体させられる所かな。 二つを合わせてナイトメビウスブレスにすれば、強力なメビュームナイトブレードが使える様になるんだ。 これの御蔭で、色んな強敵を相手に勝つことが出来たし……」 「へぇ~……」 「剣で言うなら、セブン兄さんのアイスラッガーも凄かったなぁ…… 物凄く斬れるんだけど、手に持って短剣のように使ったり、ブーメランのようにしたり……本当、便利な武器だよ。」 「結構、色んな種類の道具があるんですね」 「うん……でも、まだこの程度は序の口だよ。 タロウ教官やジャック兄さんのブレスレットに、レオ兄さんのウルトラマントなんか、とんでもない能力があるし……」 「とんでもない能力……?」 「早い話が、兎に角万能武器なんだ。 まずタロウ教官なんだけど、教官は二つのブレスレットを持ってるんだ。 自前のタロウブレスレットと、ウルトラの母から授けられたキングブレスレットと。 タロウブレスレットの方は、あまり使う機会がなかったらしくて、槍に変化するぐらいしか僕は知らないけど……」 「ブレスレットが槍に……?」 ブレスレットとは、つまり腕輪の事。 自分達のデバイスのように、起動させると大幅に姿を変形させるという事だろうか。 そう考えれば、簡単に納得できる。 「キングブレスレットは、まあ本当に凄い道具だね。 火炎放射とか、高圧電流とか。 そうそう、バリアを発生させたりもしたなぁ……」 多様な攻撃手段に、そしてバリア。 これは、殆どのデバイスの標準装備といえる。 それにメビウスブレスでも、この程度の事は出来ていた。 「大きさを変化させて、相手の嘴を封じたり……」 「大きさが変わる……?」 「嘴を封じる……」 サイズの変化が可能。 この程度なら、十分OKである。 事実、自分達のデバイスだって今は小さい状態だ。 流石に、敵の嘴を封じるという発想はなかったが…… 「解毒や治癒にも使えて……」 ダメージを回復させる。 これも、勿論ありの能力だ。 攻撃機能も併せ持ったデバイスというのは流石に珍しいが、無いわけではない。 「相手から奪った鞭を光の槍に変えたり、ロープを鎖に変えたり……」 「……え?」 ちょっとずつ、話が妙な方向に向かってきた。 鞭を槍に、ロープを鎖に変化させる。 自分達のデバイスが変化するのではなく、他者の所有物を変化させるときた。 幻術でそう見せかけたりするのじゃなくて、本当に物質を全く別のものに変える。 こんなのは、流石に見たことが無い。 しかし……これはまだ序の口。 「東京タワーに飾りをつけて、クリスマスツリーにしたり……」 「えぇっ!?」 明らかに何かがおかしい。 戦闘用だった筈の道具なのに、ここで急に用途が変化した。 東京タワーに飾りつけなんて、そんな魔法もデバイスも、当然あるわけがない。 そもそも、何でそんな使い方をしたのかが物凄い気になる。 「後はそうだなぁ……あ、あれがあった。 バケツに変化させて、酔っ払ってる怪獣に水をぶっ掛けて酔いを醒ませたやつ。」 「ば、バケツ!?」 ブレスレットからバケツに変化する。 勿論、自分達が見てきたデバイスにそんな類のものは無かった。 というか、そんなのあって欲しくない。 例えば、起動させたレイジングハートやバルディッシュの形態がバケツだったら…… はっきり言って、ビジュアル的には最悪である。 バケツで戦う魔法少女なんて、見たくない。 それ以前に、戦ってる姿を想像できないが。 「……か、変わってる道具だね……」 「僕もそう思います。 でも、レオ兄さんやジャック兄さんのも同じぐらいかなぁ……?」 「えっと、どんな道具なんですか?」 「レオ兄さんは、タロウ兄さんと同じように二つ持ってるんだ。 レオブレスレットと、ウルトラマント。 ブレスレットの方はまあ、タロウ兄さんのタロウブレスレットと似てるかな……?」 どんな風に似ているのか、物凄い気になる一同。 「ブレスレットから、レオスパークっていう光線を発射できるんだ。 これの御蔭で勝てた戦いも何度かあったし……」 まずは光線ときた。 これはあってもおかしくない機能だから、十分分かる。 しかし……他に何か、とんでもない機能があるんじゃないだろうか。 そう、誰もが考えていたが……それは見事に的中した。 「注射器に変えて使ったこともあるって言ってたっけ?」 「注射ァッ!?」 たまらず、皆が声を上げてしまった。 ある意味では、ここまでで最強の危険物が来てしまった。 戦闘で注射器を使うというと、真っ先に思い浮かぶのは一つ。 (毒物注入……!?) 注入する毒物次第じゃ、かなりの成果を上げられるのは間違いないだろう。 だが……言ったら悪いが正義の味方のやることではない。 想像したら、何か嫌な気分になってしまった。 すると、そんな彼等の様子を察したミライが、とっさに言葉を繋げた。 「ああ、毒を注射したりとかそんなんじゃないですよ。 トドメをさす前に、相手の血液を吸い取っただけだって言ってましたから。」 「え……!?」 血液を吸い取る―――吸血。 ある意味、毒物より性質が悪いんじゃないか。 余計に皆の表情は、暗くなってしまっていた。 一応、ウルトラマンレオの名誉の為に補足しておくが、彼は断じて残酷な攻撃手段をとった訳ではない。 敵怪獣の血液から血清を作り出し、人々を治療する必要があるから血を吸い取ったのだ。 最も、ミライはこの一番肝心な部分を言い忘れてしまっているのだが…… 「ウルトラマントの方は、兎に角凄い防御力があるんだ。 相手の火炎放射や念力を防いだり、相手の攻撃次第じゃ傘に変形させて使ったり……」 「防御、か……」 先ほどの注射器に比べれば、遥かにマシな能力に聞こえる。 傘に変形させるという発想については、少しばかり驚かされるが、これはありかもしれない。 ディバインシュートやスナイプスティンガーなどといった攻撃が上空から迫ってきた際には、いい防具となる。 どうやらウルトラマントは、この様子じゃ防御専門の道具らしい。 先ほどの注射器の様な、ショックを受けるような使い方はない…… 「後は、相手にかぶせて身動きを封じたり出来るって言ってたっけ。」 「え゛……?」 前言撤回。 それはどう考えても、悪役の使い方です。 対戦相手にマントをかぶせ、視界を封じている間に滅多打ち。 よく、悪役レスラーが使っている手段である。 ここでウルトラマンレオの名誉の為に補足しておくが、彼は断じてそんな風に使ってはいない。 彼は相手の怪獣にマントを被せ、そうしてパワーを奪い動きを封じたのだ。 はっきり言って、ミライの言い方が悪い。 「けど、やっぱり一番なのはジャック兄さんのウルトラブレスレットだよ。 タロウ教官やレオ兄さん達には悪いけど、あれ程凄いのは見たことないし……」 「……今のより、上?」 これの更に上をいく性能。 もう、全くもって予想がつかない。 対戦相手を手打ちラーメンにして食べてしまうとか、そんなレベルだったりするのだろうか。 皆は息を呑み、ミライの説明を待った。 「ウルトラブレスレットは、色んな形態に姿を変えれるからね。 槍やブーメラン、ナイフに変えて攻撃したり……盾に変えて、防御したりもしたっけ。」 これまでと同じように、最初のうちはまだ許容範囲内だった。 種類こそ多いものの、武器への変化なら全然OKである。 盾への変化も、何らおかしくはない。 そう……この辺なら、まだ許容の範囲内なのだが…… 「ブレスレットを敵に飲み込ませて、体内で爆発させて怪獣を倒したり……」 「体内から爆破!?」 いきなり、物凄い攻撃手段がきた。 しかもこれは、先程のレオの様な誤解は一切無い。 本当にウルトラマンジャックこと帰ってきたウルトラマンは、これをやっている。 敵を倒す為とはいえ、今思えば正義の味方がやる攻撃手段とははっきりいって思えない。 下手をすれば、スプラッタムービーの出来上がりである。 「決壊したダムに投げつけたら、ダムの水が止まったり……」 「だ、ダムをせき止めたんですか……」 先程の爆弾ブレスレットと違って、平和的な利用方法。 ダムの決壊という大きな事故を防げた事を考えれば、中々のものである。 しかし、これはこれでどんな道具なんだとツッコミを入れたかった。 「沼の水を蒸発させて、干上がらせたり…… あ、蒸発させた水はちゃんと後で雨にして降らせたから、大丈夫だよ。」 「……沼を丸侭一つって……」 また凄いのがきた。 後で元通りになったからとはいえ、近隣の人達には結構迷惑だったんじゃなかろうか。 特に農家の人とかには、凄い申し訳ない気がする。 「僕が聞いてて一番驚かされた能力は、やっぱりバラバラにされた時のかな……」 「ば、バラバラって……まさか……?」 「ジャック兄さんは一度、敵に氷漬けにされて、それで全身をバラバラにされちゃった事があるんだ。 でも、ウルトラブレスレットの力で……」 「や、やめてぇっ!! 怖いから、これ以上はお願い!!」 想像したら怖くなってしまったのか、何人かが声を荒げた。 バラバラになった体がくっ付いて、元通りに再生。 もう、治癒魔法とかそんな次元のものじゃない。 ホラーの領域に達している……生で見たら、トラウマになるんじゃなかろうか。 流石にこれはミライもまずいと思ったのか、ここで話を切り上げる事にした。 最期に、ウルトラブレスレットの機能を一つだけ話すことにする。 「こ、これで最後になるんだけどね。 ウルトラブレスレットは、巨大な光弾になって惑星を一つ破壊した事が……」 「はぁっ!?」 究極きました。 惑星破壊……スターライトブレイカーどころか、アルカンシェルより破壊力がありかねない。 ここまで話を聞いてきて、皆の顔は真っ青になっていた。 無茶苦茶とか、もうそんな次元を遥かに越えている。 ウルトラマンの恐ろしさを、皆はこの日、改めて思い知らされることになったのだった。 (今捜索している闇の書よりも、こっちの方を何とかした方がいいんじゃ……) (悪用されたら、世界が軽く一つや二つ滅びるような……) 目次へ
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「ん……………」 身体が、動かない―――― 朦朧とする意識を取り戻し、肉体に思考の戻った彼女が初めて思った事がそれだった。 気だるげながら覚醒している意識と相反するように、体のパーツのどれをとっても彼女の思いのままになる箇所が無い。 まるで鎖に縛られているような、金縛りにあってしまったかのような感覚が彼女―――高町なのはを襲う。 (………………) かつてない激戦に苛まれた身体の疲労は凄まじく 自身の肉体が耐えられるダメージ量の限界を三段は超えていた。 起きてすぐ動けるはずがない。 「気がつきましたか……ナノハ」 後遺症が残る可能性―――最悪の事態が頭を過ぎる高町なのはに今、声をかける者がいた。 彼女は今、硬いベッドに寝かされ床に伏せている。 そこまで自分の意思で辿り着いた記憶はない。 そうだ―――そんな事も思考に入れられないほどに彼女は疲労していたのだ。 こちらを心配そうに見下ろす、恐らく自分をここまで運び、介抱してくれた金髪の少女。 「セイバーさん……」 そんな少女が名前を呼ばれ、ほっと一息ついていた。 「手当てしてくれたんだ…」 次いで自分に施された簡素ながらの治療、巻かれた包帯などに気づく。 「ありがとう……面倒かけちゃったね」 「礼には及びません。大した事はしていない。 鞘の回復が良いタイミングで行われたため、元より外傷はありませんでしたから」 アヴァロンの回復は凄まじいものだった。 体組織のほとんどが引き裂かれた再起不能レベルの傷をも蘇生させ 神経に痛みは残るも、骨や筋肉に後遺症が残る事はどうやら無いようだ。 「………ここはどこ?」 現在の状況を確認するなのは。 まだ記憶が混濁している―――― セイバーの語ったところによると、あの後、共に支えあいながら上空を飛び続けた両者であったが 疲労困憊で限界をとっくに超えていたなのはは、戦闘が確実に終了した事を認識した途端 力尽き、その意識を落としたのだという。 なのはという司令塔を失ったセイバーであったが、組み込まれていたレイジングハートのリカバリープログラムのおかげもあり ちぐはぐながらも何とか飛び続け、ここに着陸したというわけだ。 「的確な指示でした。彼女の助力がなければ二人して地面に落下していた事でしょう」 shanks 主人想いの杖に賞賛の言葉を送るセイバーである。 ここは―――山岳地帯。 ただでさえ人気の途絶えたこの世界にて更に人の寄り付きそうの無い秘境じみた景観。 相応の距離を飛んだセイバーはそこに、山師の使うような古びた小屋を見つけ なのはを寝かせるために降り立ち、今に至るというものだ。 こんな人里離れた場所に身体を休める小屋があった事も中に治療道具があった事も出来すぎなくらいの僥倖である。 素直にそれに甘え、ようやっと一息つけたセイバーとなのはであった。 「セイバーさん」 だが、そんな柔らかい空気を否定するかのように―――魔導士は固い声でセイバーに問う。 「どうしましたか? ナノハ」 「…………」 一呼吸、じっくりと一呼吸置いてから―――― 「勝ったの? 私達」 ―――――その問いを口に出していた。 ―――――― 「…………」 「…………」 部屋を沈黙が支配する。 「……………その問いには答えたはずです、ナノハ。 私達の勝ちだと」 「そう、じゃあ質問の仕方が悪かったのかも知れないね。」 やがてゆっくりと口を開いたセイバーに対し、 なのはは黒真珠のような光を放つ目を眼前の騎士に真っ直ぐに向ける。 「私達……………本当にあの人を倒したの?」 「―――――何故そのような事を?」 「うん。一応、確認」 「心配をする必要はありません。 体に障ります。」 その某かの核心を突くような問いかけに―――言葉を濁す騎士。 「あれほどの墜落に巻き込まれたのです。 普通に考えれば無事に済む確率の方が遥かに―――」 「セイバーさん」 歯切れの悪いセイバーを前にして、高町なのはは断固引く気は無い。 彼女の双眸が正面からセイバーを射抜く。 その真っ直ぐな瞳はあらゆる虚偽やはぐらかしを見抜く鷹の目のよう。 (……………) ――――フゥ、と……… 防戦に徹しようとしたセイバーが、その無駄を悟り溜息を一つ。 そして程なく白旗を揚げる。 「アレで大人しくなってくれるような輩なら私も苦労はしていません。」 「……………だよね」 騎士の言葉の意図する所は明らかだ。 十分な答えを得て、なのはは再びベッドに体を横たえた。 最後のあの空で確認をした時からセイバーには分かっていたのだ。 サーヴァントであるが故に――― あの爆炎の中、男の強大な気配が微塵も消えていない事に。 その事実―――倒してなどいない…… まだ何も終わっていないのだという事を。 「しかし何故分かったのです? 最後の一撃は快心の手応えだった。 あの一刀―――相手を打破した事に疑いの余地は無いはず……」 「全然快心じゃないよ。あんなの逃げながら手を振り回してただけ」 試すようなセイバーの問いかけに真っ直ぐに自分の意見を示す戦技教導官である。 「あんなに強い人を倒そうっていうのに気持ちの乗らない攻撃を何発振るったって届くわけが無い。 初めから、撤退しながらの攻撃が通用する相手じゃないのは分かってた。 あの局面じゃ良くて相手を押し返すのが精一杯……そう思っただけだよ」 「………」 「セイバーさんは……」 「え?」 騎士の顔を見ず、天井に視線を彷徨わせながら なのはは躊躇いがちに少女に声をかける。 「もう一度、あの人と戦うの?」 「―――はい」 ――――――即答だった。 「この身は再び、あの男と雌雄を決する事になるでしょう。 それは決して覆せぬ運命のようなものですから。」 瞳に強い意思を込めて、騎士は臆する事無く答える。 あの恐ろしい敵と再び相見える事を――― 天井を見据えていた高町なのはの瞳が揺れる。 「…………死んじゃうよ。あんな人を相手に……ん、」 躊躇いがちに紡がれたその言葉。 止められるものなら止めたい……それは魔導士の偽らざる本心だったが そんな彼女の言葉を遮るように、なのはの口に人差し指が当てられた。 「それ以上言うと、また喧嘩をしなければなりません。」 苦笑混じりにピシャリと、はっきりとその言葉を切り捨てた騎士。 あの男との闘いは聖杯戦争を勝ち抜く上で、決して避ける事の出来ない戦いだ。 なのはとて分かってる。 両者の間に紡がれた並々ならぬ宿業。その感情。 自分の言葉などでは―――到底、止められる域には無い事に。 (…………) しかして、このやるせない気持ちはどうしようもない…… 少女を見ないように寝返りをうち、口を閉ざしてしまう魔導士である。 再び、山小屋を支配する沈黙―――― その中において………… 騎士はいずれ来るであろう、その宿命の戦いに想いを馳せる。 あの強大な王と向かい合う自分の姿を幻視しながら―――――― ―――――― 地平に消えていくその姿――――― 籠の中に囲った鳥が檻を食い破り、空に飛び立っていった…… その様を――――――男は無言で見つめていた。 燃え盛る炎の中、悠々と歩を進め、荒野の只中に立つ黄金の肢体。 「―――ススで汚れた」 その一言。現状の不快感に対する率直な感想を述べていた。 遥か彼方を飛び退るセイバーと魔導士。 あの距離では新たな宝具を展開したとて、もはや影すら掴めまい。 「セイバー」 使用した全ての宝具が男の宝物庫に還っていく 大破したヴィマーナの残骸。 撃ち尽くす寸前だった英雄王の無尽蔵の宝具たち。 これだけの戦力を投入した事などいつ以来であろうか? しかもそこまでして成果が全く芳しくなかったというのだから男の苛立ちは想像に難くない。 「もし次に相対せし時、その輝きが色褪せたままであったなら――― それはお前を見初めた我の見込み違いであったという事。」 遠ざかっていく背中。 金色の髪の少女に向けて真紅の瞳に暗い陰を落としながら――― 「その時は我自らの手で唾棄してくれよう。」 ――――男は言い放つ。 自身が見初め、認めたモノが醜悪なイロに染まる事など在ってはならない。 そのような事―――この万物を支配する原初の王が許せるわけが無い。 「―――――」 次―――――そうだ。 次といえば……… ――― 次は勝とう ――― あの端女――――高町なのはの言葉が耳について離れない。 結局、最後の最後までセイバーとの逢瀬を邪魔してきたあの女。 市井の身でありながら、あの剣の英霊を御し従えるかのような様相も気に食わないし 男の誅殺から逃れ、無礼な発言の数々を償わせられなかったのも口惜しい。 だが、そうだ……認めねばなるまい。 もし、この邂逅が騎士王との一騎打ちであったならば 自分は間違いなくセイバーを陥落せしめていた筈だ。 ならばそれが叶わなかった原因は……もはや語るまでも無いだろう。 あの女の存在が――――覆した…… 決まっていた事象を―――塗り替えたのだ…… ―――――― 「―――言葉には言霊が宿る」 その場凌ぎの言葉だったにせよ「次」と口に出してしまったのならば それが何らかの力を持つ事もあるだろう。 またいつか、あの女は自分の前に現れるかも知れない。 何故かそんな気がする。 ならばその時こそ――― 「最低でも三日は生かさず殺さず―――苦痛と悲鳴を極限まで搾り出し……」 認めてやろう。 自分が手ずから引き裂く価値のある存在と認めた上で 阿鼻叫喚の苦痛と絶望を絡めて―――― 「その後、生きたまま心身ともに刻んで地獄の狗にたらふく食わせてやろう」 処断してくれよう。 どうして生まれてきてしまったのか――― そう後悔するほどの裁可をその身に下しながらに。 男の瞳に残忍な光が灯る。 あの女はこの英雄王を怒らせてしまった。 もはや安らかで幸福に満ちた最期を迎える事はないであろう。 ―――――― 正直、今回の醜態は流石のギルガメッシュにも落胆はあった。 だがその憤りを言葉にして吐露するのも詮無い事だ。 そろそろ常の王の顔を取り戻さねばならない。 いつまでも情念に囚われ、安い感情を暴露したままではいけない。 何せ――――見ているモノがいるのだから……… この身をこそこそと下卑た視線で覗き見ている輩がいる。 初めから気づいていた。 この歪な世界。この作られた矮小な箱庭。 そんなモノを支配して愉悦に浸っている愚かな痩せ犬の存在に。 「―――――ハ、」 英雄王が空を見やる。 その何も無い虚空に目を向ける。 日が昇り始め、燦々とした空気が男の肌を撫でる中―――やおらその宝物庫から一振りの剣。 乖離剣エアを取り出して何もない空へと向けた。 「―――――我がそこに辿り着くまでだ。 それまで精精愉しむが良い。」 そして一言………男は彼らに対して確かなる言葉を放つ。 全てを掴む男であるが故に神にすら宣戦布告するのが男の在り方。 世界を切り裂く剣を虚空の誰かに向けながら――― イレギュラー、英雄王ギルガメッシュは今、セカイに宣戦布告をし―――― そのまま何処かへと去っていった。 金色の残光を、王の威光を存分に場に遺して……… ―――――― 「……どうするの? これから」 「…………」 なのはが騎士に背中を向けたまま、その問いを口にした。 一息ついたその後はどうするのか? なのはの問いに沈黙を以って答えるセイバー。 どうするか、などと――――答えは決まっていた。 セイバーには為さねばならぬ事がある。 当然なのはにも。 互いに未知なる世界に放り込まれた身だ。 一刻も早く己がマスター、仲間と合流して今後の対策を練らなければならない。 本来ならばここで悠長にしていられる時間すら惜しいのだ。 そして互いに進む道が違う以上……自ずと結論は出るのだ。 「当ては無いんでしょう? 行き先や方針が定まらない以上、一緒に行動した方が絶対にいいと思う。」 だが後ろ目で控えがちに少女の顔を見ながら、魔導士は少女に共に行く事を進言する。 「安全面や行動範囲の面から言っても…… ここで別れるよりはもう少し様子を見た方が絶対に、」 「ナノハ」 それは正論にかこつけた心情的な吐露だった。 心配だった……この騎士が。 揺るがぬ意思と強さを持っている筈の騎士王。 その背中が何故か酷く危うく儚い―――そう、なのはには感じられたのだ。 「―――事を為した暁には貴方に紹介したい人物がいます」 そんな秘めた感情を胸に、騎士との同行を求める高町なのはに対し セイバーは――――唐突にその話を切り出した。 「私に?」 「ええ。彼は私のマスターというべき存在。 自分の正しいと思う事を貫き通す強い心を持った好もしい人物です。 きっと貴方とも良い友達になれる事でしょう。」 「えっと……ん、…別にそれは良いけど。」 突然の申し出にキョトンとするなのは。 それを見て、フフ…とイタズラ気に笑うセイバー。 こうしていると二人とも年頃の女の子にしか見えないのが微笑ましい。 「あ――――」 しかしながら―――そのセイバーの微笑が今、突如崩れ、奇妙な表情になる。 自分で切り出しておきながら間の抜けた声を上げる剣の英霊。 「??」 首をかしげるなのは。 迂闊……………… この少女にして我ながら重要極まりない事を失念していた。 騎士の挙動不審な顔を無言で覗き込む高町なのはである。 「いや、その……………こちらから切り出しておいて何ですが 果たして貴方と彼を合わせても良いものか……」 「? どうして?」 「想像を絶するほどの―――――――無茶をやらかすので……彼は。」 ……… こちらと目を合わそうとせずに、しどろもどろになりながら答える少女。 なのはの目が丸くなる。 ビルの屋上で言い合いになった時の事を思い出したのだろう。 この魔導士が命を粗末に扱う無謀な行為を決して許さないという性格ならば 自分の命を採算に入れずに行動する人間を見て、果たしてどういう反応をするか――想像に難くない。 「………うーん」 上目使いにこちらの様子を見てくる少女に対し、やや苦笑いのなのはである。 「セイバーさんが10だとするとどれくらい?」 「貴方を10として測定不能です」 「………………」 迷い無く言い放つセイバー。 控え目な彼女がここまで言うのだ。 それはもう……相当なレベルと見て間違いない。 「うん。何となく分かったよ…」 この騎士のマスターである。 失礼な事はあまりしたくないが…… そこまで無茶苦茶な事をする人物とあらば放ってはおけない。 この騎士の許しが得られるのならば――― 「じゃあ是非とも会ってお話しないとね。」 「お手柔らかに。」 ―――職業柄、少しお節介をするのも吝かじゃない。 と、悪戯っぽく笑うなのはである。 「でもいいの? セイバーさんのマスターなんでしょう? 自分で言うのもなんだけど私は厳しいよ?」 「甘く見ないで欲しい!」 「へっ!?」 そこでガバっと詰め寄ってくるセイバーに心底驚くなのはさん。 物静かな騎士がこんな顔をするなんてまるで予想だにしなかった。 「その厳しい貴方でも矯正しようが無いほどのレベルです! 言葉はおろか相応の体罰を以ってしても――実際に死にかけても改善しない筋金入りの難物なのです! ですからもし教鞭を振るうのでしたら、死なない程度にお手柔らかに!」 拳を握って捲くし立てるように次々と言葉を放ってくるセイバーに防戦一方の教導官。 「全く今回、ナノハと共に戦えて久しぶりに気兼ねの無い連携戦を堪能出来た…… いつ以来でしょうね……こんな開放感は。 パートナーの身を気にせず戦えるというのがこれ程に有意義な物であったとは…… ナノハと引き合わせた際にシロウ―――マスターには貴方の爪の垢をそのまま飲んで貰わなければ。」 (う、うわぁ……) なのはの目は終始、見開きっぱなしだ。 クソミソである。まさかこの少女がここまで人の事をコキ下ろすとは…… 眉をハの字にして腕を組み、う~…と唸りながらにそのマスターを罵倒する騎士。 その姿に唖然としっ放しの魔導士であった。 (………………………でも、何か) だが、そう―――― 聞き手役に徹しながら、知らず自身の口に笑みがこぼれてしまっている事に気づくなのは。 否、魔道士でなくとも……気づく筈だ。 顔をしかめながらぶつぶつと文句を言い続ける少女。 その声色が――――とても暖かい。 こんなに優しく温かい思いを込めて話されてしまっては誰だって気づいてしまう。 そのマスターという人が、この少女にとってどういう存在なのか。 まるでこの世で一番大切にしているものに触れている――― そんな幸せで嬉し気な気持ちが滲み出てきているようで その表情が本当に綺麗で……話を聞きながら少し見とれてしまうなのは。 本当に綺麗だったのだ――瑞々しくて、幸福に満ち溢れていて。 それは自分に似ていると思っていた騎士の、自分には無い一面。 なのはには知る由も無い。未だ自分の中に芽生えた事の無い想い――― それは一人の異性をただひたすらに愛する、という事。 狂おしいほどにその相手一人を求め、己の全てを捧げたいと思う事。 既存の理想と秤にかけてさえ、その者を想う心が勝ってしまう。 この少女をして「己が願いよりもシロウが欲しい」と――そう言わせてしまう程の、 ――― 恋焦がれるという事 ――― ―――――― 自分にはいるのだろうか――― その表情を眺めながらに高町なのはは思った。 頭に浮かべるだけでここまで幸せな気分になれる――そんな人が。 (ユーノくん? フェイトちゃん?) 子供の頃から助け合い、自分を支えてくれた とても大切で、いなくなる事なんて考えられない友達。 (はやてちゃん? ヴィータちゃんやヴォルケンリッターの皆?) いずれもかけがえの無い仲間。 この人たち無くして今の自分は無い。 (スバル? ティアナ? エリオ? キャロ?) 自分の手がけた教え子たち。 自分を慕ってついて来てくれる可愛い後輩たち。 この子達がもし戦場で還らぬ事になったら自分は―――多分、泣くだろう。 (………………………ヴィヴィオ) あの子を助けるため――――自分は一度、公務の身でありながら私情を優先した。 あり得ない事だった。 頭の中がぐちゃぐちゃになって……自分の信ずる道も責任も二の次になってしまった。 もし次、同じ事が起こってヴィヴィオを助けるために周りを犠牲にしなければいけない時 自分は決して私情を優先しない事を心に固く誓っている。 でも――どうなのか…… 本当にそういう場面に直面したとして、自分は――― (…………私、は…) 「――――痛むのですか?」 「えっ!?」 別の事に思いを馳せていた所にセイバーに声をかけられ フリーズしていた高町なのはは咄嗟に反応出来なかった。 「あ………えと、うん…… 聞けば聞くほど無茶苦茶な人だよね、その人…… 腕がなるなぁ。ふふ」 「やはり疲れているようですね。 すみません……私の方が話に夢中になってしまって。」 「ううん、セイバーさんとお話しするのは楽しいよ。」 それはお世辞ではない。 この、どことなく自分に似ている騎士とのお喋りはなのはにとって新鮮で楽しかった。 セイバーにとっても同じ。 尊敬するマスターはいる。 主従を尽くしてくれた者もいた。 だが自分と全くの対等の位置に立って、あくまで同じ目線で、時にはケンカをして時には支え合う。 彼女にとっては初めての感覚であったのだろう……その―――友達、というものが。 他愛のない話をした 自分の事や友達の事を話した 色々な事を話した なのはも今や、目の前の少女が本当に現世の人間でない事――― 何か超常の存在である事は理解している。 だがその事は―――また、今度ゆっくり聞こうと思った。 (…………) そろそろ体力の限界だ。 瞼が絶え間なく重くなる。 だからこの次――― 目を覚ました時にゆっくりと…… ―――――― 談話は長くは続かなかった。 高町なのはの肉体が再び強烈に休養を欲し、彼女に抗えぬほどの睡魔が訪れる。 「ごめん……少し、寝ていいかな?」 重くなる瞼をしばたかせる魔導士。 抵抗し難い睡魔に身を任せてしまう前に一言、セイバーに断りを入れる。 「ええ――お休みなさい。ナノハ」 「はは、流石に疲れてるみたい…… 起きたらまたお話聞かせて。」 「―――――、はい」 既に夢現に入っているかのような、小さくはっきりしない声で問答するなのはに微笑を返し 少女は彼女に毛布をかけて眠りを促す。 それに気持ち良さそうに身を委ね、目を閉じ、数刻を待たずして――― すぅ、すぅ、……と、まるで電源が切れたかのように寝息を立て始める高町なのは。 (無理も無い…) 現世の人間では願っても覗く事すら叶わぬ神代の激戦――― それに身を投じ、戦い抜き、生き抜いた。 硬い寝床に身を横たえる高町なのはを見やる少女。 本来、健康で血色の良い筈の顔が落ち窪み、心なしかやつれている。 そのか細い体には傍から見てもまるで生気が通ってない――まるで病人のようだった。 当たり前だ。 彼女はヒトの身でありながら一晩で英霊と二連戦したのだ。 まさに精魂尽き果てたのだろう。 疲労困憊の痛々しい姿をまともに正視出来ず、目を逸らしてしまうセイバー。 彼女にはもっともっと休息が必要だった。 額のタオルを絞って変えてやる。 そして魔導士が完全に寝入るのを見計らってから――― 「―――ナノハを頼みます」 Allright...Good luck brave knight 「ありがとう……」 床に置いてあるレイジングハートに彼女は別離の言葉を告げた。 自分と共に行くと言ってくれた彼女―――その優しさと気遣い。 だが、セイバーは絶対にそれを受けるわけにはいかない。承知するわけにはいかない。 彼女を同伴させるという事は自分の戦いに魔導士を巻き込むという事だ。 言うまでもなく此度の戦いに彼女を巻き込んだのは自分。 その挙句、高町なのはは負わなくても良い傷を負ってこうして地に伏せっている。 彼女を再びこんな目にあわせてしまう事などセイバーは絶対に了承出来ない。 聖杯戦争とは謂わば参加者各々の私闘。 その私事に関係の無い者を巻き込むなど騎士として恥すべき行為に他ならないのだから。 無防備な彼女を残して去る事には当然、危惧を抱くセイバーであるが このような山小屋では人の目につくかどうかも怪しいし彼女の敵に発見される確率は低いはずだ。 ケモノや魔獣が跋扈していたとしてもこの魔杖――レイジングハートが簡易結界を張って防ぎ、彼女を起こしてくれると言っている。 むしろ自分がここにいては逆効果なのだ。 他のサーヴァントにその身を感知されて襲撃される恐れがある。 そしてこんな状態では他のサーヴァントからなのはを護って戦うなど不可能―――今度こそ彼女を死なせる事になる。 「ふふ、このような気遣い…… 貴方に聞かせたらまた叱られてしまいますね」 それを素直に話した所でこの魔導士は納得すまい。 むしろそんな言い方をすれば逆に食いついてくる。 困ってる時はお互い様、とばかりに助力を申し出てくるはず。 こんな所は本当に――マスターに似ている。 だから――騎士は黙って出て行かざるを得ない。 「――――はぁ………」 ふらつく身体を引きずるように……騎士は山小屋の扉を開け放つ。 自分とてダメージが抜け切っているわけではない。その重い体を引きずるように――― セイバーはゆっくりと勝手口に向かい、その戸を開く。 一面に広がるのは岸壁と渓谷――――― 切り立った崖の下からは針葉樹林による緑の絨毯が広がっている。 苦笑する剣の英霊。 これは冬木の地に戻るのに相当手間がかかりそうだ。 小屋を後にする前に……騎士はもう一度、振り返る。 その部屋の奥。 深い眠りについている一人の魔術師。 否、魔導士に向かって一言―――― 「必ずまた会いましょう……タカマチナノハ。 この剣にかけて―――――――約束です。」 別れは言わない いずれまた再会しよう この素晴らしき友と その思いを胸に秘め―――― エースオブエースと騎士王の道はここで一先ず別れ、別の道を往く事になる。 本来、交わることの無かった二人の英雄の邂逅。 その物語は―――幕を閉じた。 だかしかし、それはこの世界で繰り広げられる事になるであろう 血で血を洗う壮絶な闘争劇の―――――序章に過ぎないのかも知れない。 ―――――― 無限の欲望の手によって起動した神々の遊戯版――― それが次の駒を選別すべく軋みを上げる――― 狂気の愉悦を称えたこの遊戯――― 次に舞台に上がるのは誰なのか…… カラカラと、まるでしゃれこうべの哂いのような音を立てながら起動する選別の祭壇。 その答えは誰にも…………知る由は無い。 ―――――― 「……………」 「……………」 そして時は今――――― 魔導士が騎士の少女と別れた山小屋にて。 「――――取りあえず話、長っ!」 血みどろのレクリエーションを終えた魔法使いが二人。 ズタボロの身体を横たえながらの情報交換の真っ最中であった。 「話を聞かせる気があるのアンタは!? 途中四回ほど眼を開けながら寝てました私スミマセン。」 「貴方が詳しく聞かせろって言ったから……」 「もっとよく考えて話作りなさい! そんなだから、ことごとく説得失敗するのよこのバカメっ。」 「……………」 「全く貴重な時間を無駄にした。 この話で分かった事と言えば貴方がその仕事に破滅的に向いてないって事くらいじゃないの…… ほら、バンザーイ! 早く薬塗って塗って!」 「言いたい放題……私だって必死だったんだよ…?」 かつてセイバーと心温まる話をした場所で それとは全く似ても似つかない、腹ただしい罵倒を飛ばしてくる魔法使い。 蒼崎青子の相手をさせられる高町なのはである。 「それでサーヴァント―――セイバーとはそれっきり?」 「うん……私が起きた時にはもう…」 「ふぅん」 微かに落胆の表情を浮かべる高町なのは。 彼女が再び目を覚ました時―――少女の姿はなく 自分と袂を分かってしまったと理解した時の寂しさは言葉では表せない。 やるせない記憶に苛まれるもその後、身体と魔力の回復を待ってこの山小屋を基点に付近を調査。 その最中に、どこぞの物騒なマジックガンナーにイチャモンをつけられたというわけだ。 (しかし英雄王に騎士王? ……どおりでキモが据わってるわけね。 ウチの世界の上位の神秘と既に一戦交えてたってワケか。) 話を聞くにつれ、内心で驚愕するミスブルー。 やはりこの娘、戦闘力に関しては予想を遥かに上回るレベルにあるという事だ。 「くっそー……こっちはズタボロなのにピンピンしやがってー! 私にやられた傷なんて蚊に刺されたようなもんってか!」 「こちらも相当こっ酷くやられてるよ……見れば分かるでしょう? ブラスターの後遺症も心配だし。」 青子の所持していた怪しげな処方器具の数々を巧みに操り 互いに互いの治療を施している最中の二人。 「姉貴のとこからガメてきた人形処方が役に立ったわ。 たまには役に立つのね、あのメガネも」 「ミッドチルダには無い凄い技術だよ……傷の塞がり方が尋常じゃない。 それもそちらの魔術の力なの?」 「まあね。たまに肉体変異とか起こってえらい事になるけど」 「は………?」 「いや何でもない」 既に自身の傷口に処置を施した教導官にとって聞き捨てならない呟きは どうやらその耳に入る事はなかったようだ。 「ところでもう一度確認するけど―――英霊と戦ったのね?貴方は。 一方的にやられたわけじゃなく、ちゃんと戦いになったわけね?」 「うん。でも互角の闘いだったとは思わない…… 地力では完全に上をいかれてた。」 「奴ら人間超えてるからね。根本的な部分で上をいかれるのは仕方がないわ。 でも――――攻撃は効いたのね?」 「うん。効きは薄かったと思うけど、確かにダメージは与えてたと思う。」 「…………………」 口元に手を当てて考え込む蒼崎青子。 (やっぱり、そういう事…?) 英霊に―――神秘に攻撃を通した。 サーヴァントの対魔力をブチ抜いたという事実。 「魔法」以外では、この世に現存するあらゆる魔術は騎士王の影を突破できないというのに。 同じ魔弾使いでありながら何故かこの相手の「魔法」を見た時、胸くそが悪くなった。 生理的嫌悪が先立ち、何が何でも否定してやりたくなった。 アナタのそれは魔法じゃないと。 そして今聞いた話を総計して……… 目の前の娘やその世界の住人の使う「魔法」とやらが青子の考えている通りのものだとしたら――― (水と、油……) それはどこまでも相反し、反発し合うモノであるのかも知れない。 表情には出さないミスブルー。 だが、あまり芳しくない仮説が立ってしまった事に―――心の底で焦燥を覚える。 「ときになのは―――貴方の所属する……その管、」 「時空管理局?」 「そう、それ。 アナタはその下で動いてるのよね?」 「うん。正式に勤務して結構長いよ」 「じゃあ今ここで起こってる事―――上に揚げるワケ? 英霊や、私の使った……魔法の事とか。」 それは何気ない質問だった。 少なくとも、なのはには他愛の無い質問に聞こえた。 その問いに隠された意味―――その声に微かに込められた危険な響きに―――なのはは気付くのが遅れた。 「そうなると思う。まだ上手く報告書に纏める自身ないけれど…」 故に気付けないままに対話した―――魔法使いに背中越しに答えた。 「正直、話が複雑で私一人の判断では動けない。 もし戻れたら一度、上の指示を仰がない、と…………ッ!」 突然、自身の心臓を背後から貫かれたかのような錯覚に襲われ――― 相手のたくし上げたシャツの下をまさぐって塗りたくっていた軟膏をその場で放り出し、勢い良く飛び退く教導官。 「――――――」 そのまま―――待機モードとなった己がデバイスを握り締め…… 緊張さながらに相手を見据える。 「――――どうしたのよ?」 「どういうつもり……?」 「何が?」 眼前にて向かい合う両者。 その常に称えた笑みを完全に消し去り――― 狼のような鋭い視線をこちらに向けてくるミスブルーに対し、なのはも冷徹なる戦意をぶつけて相対する。 「何かヘンな事言ったかな……私?」 「だから何がよ?」 「どうして……殺気をむけるの?」 「あらら何とも―――――――鋭いね、このコは。 時代劇で主役張れるわ。」 「はぐらかさないで」 ふざけている――そんな言い分は通用しない。 今、背中越しに感じた殺意は紛い様のない本気のものだった。 幾多の戦場を駆けてきた高町なのはがそれを読み間違える筈がない。 「青子さん」 厳しい視線を崩さない高町なのはに対し、青子はため息を一つ――― 「いや何ね……ちょっと愕然としたついでに アナタ、少しおつむが足りないんじゃないの?って思ったのよ。」 「意味が分からないよ」 「分からない? 本当に?」 くしゃ、っと頭を掻き毟るミスブルーである。 「………だから致命的なんだって言ってるの。まあ無理も無いんだけどね。」 なのはに対しての最後の言葉はもはや、ぼやきに近い。 「なのは。歴史のお勉強」 「………?」 「フロンティアを気取る余所者がネイティブに対してする行動。 仕打ちは場所、時代を問わず終始一貫している。 ―――――さて、どうするでしょう?」 「……………」 まるで自分を試すような青子の口調。 威圧されている感がどうしても抜けなくて、なのはの声も固くなってしまう。 「ひょとして……管理局の事を言っているの? 言っておくけど局は征服とか、無茶な武力介入はしないよ。ちゃんと相手の話は聞くし。 過ぎた力の暴走や破壊を止めるために介入はするけど、それは危険な力を抑止・保護するだけ。 必要以上の関与はその趣旨じゃない。」 「保護、ね。 じゃあ対象がその保護を拒んだらどうなるの?」 心の奥底まで覗き込んでくるようなミスブルーの視線にチリチリと全身が総毛立つ。 そんな感触に駆られつつも臆することなく答えるなのは。 「なるべく現地の人達との軋轢や摩擦を起こさないように対処するから 相手や付近に気づかれないように陰ながらに対応する、と思う。」 「ナルホド模範的な答えね。 ハネ返ったマヌケは気づかないうちにビーカーに入れられてるってワケ?」 「介入に対して断固とした姿勢を取ってくる人も中にはいるけれど 仮に戦闘になったとしてもギリギリまで相手を傷つけないよう留意する。 あくまで対象の保護が最優先だから……そのための非殺傷設定だよ。」 「―――――はぁ……」 ため息の連続だ。 本気で気が重くなるブルーである。 やはり根本的に世界が違う……何も分かっていない。 その「保護」という題目が――――まさにこちら側にとって死活問題だという事に。 恐らく目の前の純真無垢な娘はその保護とやらを嬉々として受け入れたのだろう。 そして組織の管理化に入り、平和のために力を与えられ……もとい、その力ごと飼われて尖兵として飛び回っている。 お国のために働く警察や公務員といえば聞こえは良いが、その力はとてもそんなかわいいものでは無い。 単純に自分が、そんな公務に勤しむような連中と相性が悪い事も相まる胸クソ悪さも手伝って―――どうしても尖った思考で見てしまうのだ。 (この目の前の、正義を本気で信じている娘のように……… 管理局とやらの「保護」を素直に受け入れる輩がこちらの世界にいる?) 断言する。そんな奴は一人もいないだろう。 神秘とは人の手の介入を許さないから神秘なのだ。 つまりはよく分からないモノだからこそ力を発揮する。 だが管理局――――ミッドチルダの力とやらは、それとは全くの真逆の存在。 発展に発展を重ねた科学技術。 それによって紡がれたプログラムにより術式を技術化・体系化して行使される力。 その技術は異次元間の航行や人体練成……つまりはこの世界における禁忌の領域。 「魔法」に匹敵する程にまで至っているのだ。 それほどの科学技術を持った相手に保護される。 そんなモノと、こちらの世界が混ざり合えば―――― 秘匿に秘匿を重ね、星に脈々と受け継がれてきた神性は………どうなる? (取りあえず私らは失業ね。 この地球に魔法使いは――――) ――――――――いなくなる……… 全てを白日の下に晒され、犯しつくされる事だろう。 その技術という名のメスによって。 どうだろうか―――そこまでの介入をされた以上、抑止は動くだろうか? 一応、表面上は平和的な営みである以上、アラヤもガイアも静観を決め込むだろうか? 協会とか教会とか、あそこら辺はこの第三者の介入を決して許しはすまいが。 どの道こんな風に力を巡っての異世界間の交流は、大概ロクな結果を生み出さない。 両者間に決して小さくない波紋、諍い、最悪の場合は全面戦争もあり得るだろう。 「………」 目の前の魔法少女の言う時空管理局という組織。 彼女の言葉が眉唾でないのなら、その規模・力は想像の範疇を超えている。 太陽系はおろか、地球圏以外に他の知的生物の存在すら認知していない地球人類の前に突如現れた 宇宙全域に広がる管理局という組織……まるでどこぞのSFだ。 目の前の娘の話だと管理局というのはそこまで物騒な集団ではないとの事だが 物騒な対応をしないのは相手が従順だからであって、もしそうでない場合は……? 徹底的に抗う姿勢を見せた相手に対し、その巨大な力を持つ組織がどういう対応に出るのか…? 彼らの目には、手段を問わず、ただ「頂」に至る事を第一とするこの世界の魔術師はどう映る? 法やら秩序やらを重視する者たちにとってむしろ物騒な存在はこちらではないか? 高町なのはは「魔法使いは大勢いる」と言った。 それはこのテの魔法使い―――似たような武装をした連中がごまんといるという事だ。 この高町なのはレベルの敵がわんさか攻めて来る事を考えると 「ぞっとしないわ……」 シャレにならない事態になる。 英霊と五分に戦う奴らが大挙して攻めてくるのだ。 もはや戦いにすらならないだろう。 (は、はは………何よコレ?) あらゆるifを想定し、考え尽くし――― げんなりしてしまう青子。 これではまるで小学生の頃に見た荒唐無稽なハリウッド映画と変わらないでは無いか? とにかくあまりにも相手の事が分からず、それに大して情報が少なすぎて想像すら出来ない。 事態は深刻な所まで進んでしまっているのか? ただの取り越し苦労なのか? ―――何も分からない…… (何だか重い話になってきちゃったわねぇ……) 額に皺を寄せ、深く考え込むブルー。 そして青子の動向を逐一見逃さぬよう、その表情を凝視するなのは。 エースオブエースの視線に晒されている事をまるで無視して、考え込んだかと思えば、ため息をつき 空気の凍るような表情を見せたと思えば、う~…といったダレ顔になる。 「青子さん?」 「考えてる……話しかけないで」 その百面相をまじまじと見ていたなのはが声をかけるが 決まりが悪そうに青子の方から、つい――、と目を逸らすのみ。 ガシカシと頭を掻く仕草があまりお行儀が良いとは言えない。 (完全に魔法使いの専門から大きく外れる事態になってきた。 イマイチ実感が沸かない……ジェダイの騎士とか呼んで来いっつうの。) そうだ。今の状況を簡単に言うと、それはファンタジーとSFが混ざり合うようなもの。 流石の魔法使いも全ての事態を的確に把握できるはずがない。 そもそも彼女は自分達の愛する世界を護りたい!というガラでも無い。 それはある意味、達観した有り様だっただろう。 超越した力を持つ人間が過度な思い入れで行動すれば、それはときに悪い結果に転がってしまう。 だからこそ浮世の事にはなるべく関与しないよう努めてきたのだが。 「――――――ま、いいや。」 だがそれでもこれだけ大きな事態に関わってしまった以上――スルーは出来ない。 「さて、これからどうしようか……当てはあるんでしょ?」 「いや、当てはこれから探すつもり。 引き続き調査待ちというところだけど……」 「どんくさい公務員ねぇ」 「…………放っといて」 自分は魔法使いなのだから―――そして目の前に魔法少女なんてモノまでいるのだから。 昔のような臭いノリで事に当たるのも悪くはないかも知れない。 「私も付いてったげる」 「え”?」 「………」 「………」 突然に切り出された同行の意―――― いつぞやの騎士に対し、自分が申し出たそれを今度は目の前の女性から自分が受ける事となった高町なのは。 それはあの時と同じで判断としては悪くない。 前後不覚の現状で一人よりは二人で行動した方が間違いなく安全であるからだ。 「………どうやら異世界の魔法使いは礼儀を知らないと見えるわね…」 「う、ううん! ち、違うの……そうじゃなくて。」 だというのに、一瞬表情が強張ってしまった高町なのはに対して こめかみをピクピクさせる青子さん。 流石の傲岸不遜なマジックガンナーも、厚意を向けた相手にあからさまにイヤそうな顔をされて深く傷ついたようだ。 「サーヴァントには一緒に行こうとか言って泣きついたんでしょうが? 心細いアナタのお守をしてやろうという私の親切心が分からない?」 「別に泣きついたわけじゃない……」 「じゃ、取りあえず―――」 「え? あの……」 目の前の長髪の魔法使いが簡素なTシャツをおもむろにたくし上げ その一糸纏わぬ姿をなのはの前に晒していた。 「さっきの続き続き♪」 「……………」 寝床にごろんと寝転がりながら床に落ちてる軟膏を指差して、カモン!と手招きするブルー。 目の前のスレンダーで無駄な肉の無い裸体を全く隠さずに。 (………………つ、疲れる人だ…) 誰とでもニュートラルに接する事が出来るのがこの教導官の美点であり長所だ。 だが、はっきり言って………ちょっと苦手な部類に入るかも知れない。 なのはにとってこの蒼崎青子という人物は。 (アリサちゃんを常時怒らせたようなものだと思えば我慢できなくもないかな……) 礼儀正しさの見本のような彼女であるが故に、ここまで無礼で無遠慮で 人の領域をドカドカ踏み荒らす人間を前にしてはやはり戸惑ってしまうのだろう。 珍しく他人に振り回されながら、塗り薬片手に暴虐ブルーに奉仕するエース。 対して青子の方は――――ぶつぶつ文句を言いながらも存外にも目の前の娘の事を気に入りだしていた。 まああくまでも……根性があって真面目でからかい甲斐のある「玩具」としてであったが。 まるで正義を純粋に信じていた学生時代の恥ずかしい自分を見ているようでSっ気が刺激され、ついイジりたくなってしまうという面もある。 同じような世界を生きていながら、昔、自分が置いてきたものを今もなお持ち続けている異世界の魔法使い。 旅のお供としてこれ以上の肴はない。 退屈しない道中になりそうだった。 「じゃあ塗るから。動かないでね」 「痛くしたらぶっ飛ばすわよ。 ああ、それとそのツインテールが腰に当たって気持ち悪い。 切りなさい。今すぐ」 「…………」 ――――――パンッ!!! 「きゃひィッ!!!???」 軽口をたたく患者の背中の傷口を思いっきり張るなのは。 青子がシメられたニワトリのような悲鳴を上げる。 「ごめん……痛かった?」 「か、――――こ、こ……」 「そう、傷を負えば痛い……その痛みが分かるなら二度と他人に乱暴しようなんて考えない。 簡単に人をぶっ飛ばすとか蹴っ飛ばすとか強い言葉も使わない。 それから……あ、ほら動かないで青子さん。また手元が狂うよ?」 ベッドの上でのたうち回る青子を押さえつけて冷淡な視線を向けながら説教を落とす教導官。 前言撤回。易々と玩具にされるようなタマではない……この高町なのはという人物も。 物静かでとてもそんな風には見えないが―――高町なのはもまた、どちらかと言えばS属性なワケで…… 「このガキ! 歯を食いしばりなさいッ!!」 上に乗っかっていたなのはを押しのけて青子がガバっと起き上がる。 「その若さにして総入れ歯になる覚悟は既に出来てるワケだ! 明日の朝食は何がいい? 噛めない顎で食べられるモノを用意してあげるわ!」 跳ね飛ばされ、ベッドから転げ落ちて床に叩きつけられるなのはだったが そのまま無理なく受身をとって、中腰の姿勢で相手を正面に構える。 「そんな心配しなくていいよ……朝食くらい自分で作れるからっ! バインドッ!!」 山小屋に響くドタンバタンとした喧騒はもはや何度目になるか分からない 魔法使い同士の取っ組み合いの音。 セイバーとは全く逆のベクトルになるが―――これはこれで良いパートナーなのかも知れない この後、暫く彼女たちは行動を共にするわけであるが、道中は終始こんな感じなのであろう。 ―――この娘の世界と自分達の世界は決して関わるべきではないと思う……… だが、喧騒と戯れ交じりの中にあって――青子の思考には未だ拭えぬ陰があった。 閉鎖的な意見と言ってしまえばそれまでだが、それでも彼女は秘匿された世界のその頂点に位置する魔法使いなのだ。 今は悪ふざけのノリで高町なのはと話している彼女ではあるが、自分の立ち位置・彼女の立ち位置を考えた場合 恐らくこの先、迎合の道を往く事は無いのだろう。 ――― いつか本気で……今度は命を賭けて戦うことになるかも知れない ――― ドタバタ騒ぎの喧騒に紛れ、それでも青子は飄々とした笑みを崩さない。 その瞳に暗雲と漂う暗い感情を映すことは無い。 時が来るまで―――決してその隠した牙を表に出さずに、彼女は高町なのはと共に行く。 (このコを見る限りじゃ取り越し苦労だと思うけど…… 多聞に漏れず色んな人間がいるからね。 どの世界にも――――) 各々の思惑が錯綜するこの世界。 今宵、魔法使いたちの夜が―――――人知れず明けていく。 この二人の出会いが幸福なものとなるか………今はまだ誰にも分からない。
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魔法少女ニニンがなのは伝2 「女風呂…それは神が与えた最後の楽園(エデン) by音速丸」 前回のあらすじ、世界一の美男子こと音速丸様が美少女だらけの世界に降臨! 心優しき音速丸様は全ての女どもを妻にしてやるのだった… 「音速丸さん! 何を勝手なナレーション入れてんですか!?」 「ぶるうああああ! 黙れサスケエエエ!!! こういう世界は言ったもん勝ちなんだよおおおお!!!(若本)」 「なんですと!? それじゃあ俺はあの美少女たちのお兄ちゃんになるううう!!」 「ずるいっすよサスケさん! それなら俺は白衣のシャマルさんと医務室でムフフ…」 「なら俺は未亡人のリンディさんとおおお!!」 音速丸とサスケ&忍者その1と2は今日も勝手な妄想で限界ギリギリなヒートアップを巻き起こす。 本当のあらすじ、なのはの召喚魔法で呼び出された音速丸たちは何故かこの世界に居座っていた。 「リンディさんお茶ください」 「フェイトちゃんお醤油とって」 「クロノ君、ご飯のおかわり頂戴」 「お~いクロスケ~、その焼き鮭を1/3+1/6+1/2だけくれ~(若本)」 ハラオウン家の食卓で勝手放題の音速丸とサスケ軍団、彼らはどういう訳かすっかりアースラにも馴染んでハラオウン宅に居候していたのだった。 「誰がクロスケだ! それに君の要求じゃ僕のおかず全部くれって事だろうが!」 「ちっ、ばれたか~(若本)」 「音速丸さん、そんなにおなか空いてるなら私のおかず上げますよ。食べかけでよかったら」 「お~ありがとさんフェイト~。やっぱり持つべきものは美少女だな~(若本)」 「ずるいっすよ音速丸さん! 美少女の食べかけなんてレアアイテムを!」 「なら売ってやるぜサスケ、一口5000円だ~(若本)」 「なら俺は5500円出します!!」 「いい加減にしろおおお!!」 今日もクロノが突っ込みを叫ぶ、そんなクロノに母リンディは微笑んで口を開いた。 「クロノ、そんなに怒っちゃダメよ。賑やかでいいじゃない」 「でも母さん!」 「さすがマダムは話が分かる。でもあまりお美しいと美人罪で逮捕しますじょ~(若本)」 「まあお上手♪」 呆れるクロノをよそに食卓の賑わいは続いた、当分クロノは音速丸たちに頭を悩ませることになるだろう。 「さて諸君、緊急だが緊急定例会議だ!(若本)」 「緊急なのに定例会議ですか…」 「何か激しく嫌な予感が…」 音速丸に呼び出されたサスケ+忍者1と2がいつものごとく突っ込みを入れるが音速丸は気にせずに続ける。 「ま~気にすんな。それより今、アースラ女性陣はどこにいると思うかね諸君~(若本)」 「女性陣? さっき訓練するって言ってましたよ音速丸さん」 「甘え~なサスケ~、食べごろのベリーメロンのように甘え~よ。今あのメス猫どもは訓練の汗を流すべく入浴中と来たもんだ…そこで俺たちがすることなんて~決まってるよな~(若本)」 「ま、まさか覗きに行くって言うんじゃ…」 「その~まさかよサスケ~(若本)」 「いや、さすがにそれは問題あるんじゃ…」 「そ~言えば、シグナムもシャマルも入るとかなんとか~リンディママンもいるってよ~(若本)」 「隊長! 我らあなたに死ぬまで付いていく所存であります!」 「どうか指示を!」 「奴隷とお呼びください! 音速丸様!」 「ふっ話の早い奴らめ…よ~しでは女どもの肢体をた~っぷりと覗き尽くしてやるとするか~行くぞ野郎共おおお! ぶるううああああ!!!(若本)」 音速丸を神輿に担いだサスケ+忍者1号、2号はアースラ内の風呂場に向かって駆け出す、その彼らの前にクロノとユーノが立っていた。 「ぶるううあああ!! そこを退け~いチビコンビ!! 俺たちは弾ける女体の神秘をこの目とカメラに収めるという重大な使命があるんじゃああ!!!(若本)」 「っていうかただの覗きだろうが! そんな不謹慎なことを許せるか!」 「音速丸さん、僕はなのはの裸をあなただけには見せる訳にはいかない!!」 「音速丸さんヤバイっすよ~あの二人って子供だけど凄い魔法を使うそうじゃないですか…」 「しかたあるめ~。忍者1号、2号~ちょっとこのセリフを呼んでみろや~(若本)」 「はい、何々~“ここは俺にまかせて先に行け!”」 「“俺、帰ったら実家のパン屋を継ぐんだ”ってこれ死亡フラグ的なセリフじゃないすか!?」 音速丸とサスケは二人を置いて既に先に進んでいた。 「ぬはははは!! 死亡フラグを立てたお前らを生贄に~覗きに行くって寸法よ~。だが安心しろ~いお前らの分もこのキャメラ(カメラ)にたっぷりと女どもの痴態を収めてやるぜ~(若本)」 「了解です隊長! 我らの分も天使たちの姿をそのキャメラに収めてきて下さい!!」 「おう! おう! お~うチェリーボーイズ! 俺たちをただのアニメオタクだと思ったら火傷するぜ! 音速丸さん! 俺たちの分もエロ写真とエロ画像お願いします!!」 「邪魔するな変態忍者!! 母さんとフェイトを覗くなんて許さ~ん!」 「退け~! なのはの裸体を他の男に見せられるか~!!」 「あっ! 本音を言いやがったなこのエロガキ!!」 クロノとユーノを相手に忍者二人は(かなり絶望的な)戦いを挑むのだった。 「よ~し、ここが天国~つまり風呂場か~(若本)」 「音速丸さん…俺、漂う石鹸の匂いだけでどうにかなりそうっすよ」 「ふふっ…青いな~サスケ~。よしそれじゃあキャメラをスタンバイレディ!! 風呂場の通気口にドライブ・イグニッションとしゃれこもうぜ~(若本)」 「ラジャー!」 「そこまでだ! 変態ども!!」 その時、覗き準備を整える音速丸とサスケに青き狼ザフィーラが立ち塞がった。 「むむむ~犬ッコロが~邪魔をするんじゃねえ!! 俺たちはこれから聖域(サンクチュアリ)へと羽ばたかねばならんのじゃああ!!(若本)」 「どうします音速丸さん!? ザフィーラさんを足止めする生贄はもういないっすよ」 「よしサスケ、ちょっとこれを読んでみろい(若本)」 「え~っとなになに“おいこのバター犬野郎、俺のモノでも舐めやがれ”って何てモン読ませるんですか音速丸さん!!」 「ほう…サスケ貴様どうやら本気で死にたいらしいな?」 「うわ~!! ザフィーラさんが獲物を狩る獣の目で俺を見てる~~!! どうするんですか音速丸さん!? あれ音速丸さん?」 音速丸は既にカメラを持って一人で風呂場の通気口へと侵入していた、そしてサスケはザフィーラを激昂させて注意を引く生贄として捨て置かれたのだった。 「サスケ~おめえの尊い犠牲はムダにはしねえぜ~。さてさて~女どもはど~んな痴態を晒しているのやら~もう俺っち辛抱たまらんぜよ!!(若本)」 通気口の出口に来た音速丸はカメラを構えて風呂場を覗いた!! 後日、音速丸の遺体(本当に死んだ訳ではないが…)が風呂場の隅で発見された、彼の脳裏とカメラに残っていたのは輝かしい女体などではなくアースラ所属の屈強な武装局員の入浴シーンだった。 時間を間違えた…ただそれだけの話である、音速丸のガラス細工のように脆い精神は武装局員たちの筋肉質な身体と無駄毛の映像に破壊されたりした。 続かない…たぶん 前へ 目次へ 次へ
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コスチューム修得条件(第5期情報) イベントコス → 特定イベントに参加する 初級武器コス → PLv5 + 武器スキル熟練度Lv3 中級直系コス → PLv15 + CLv5 中級武器コス → PLv15 + CLv3 + ( 武器使用10回 or 武器熟練度Lv10 ) 中級イベコス → PLv15 + CLv5 or ( CLv3 + 他中級コス修得済 ) 中級魂改士系 → PLv15 + CLv5 + ○○生成修得 中級薬学士 → PLv15 + CLv3 + 大きな薬箱修得 上級一般コス → PLv35 + CLv5 上級イベコス → PLv35 + CLv5 or ( CLv3 + 他上級コス修得済 ) 超級一般コス → PLv60 + CLv5 超級イベコス → PLv60 + CLv5 or ( CLv3 + 他超級コス修得済 ) コスチューム修得条件(第6期情報) イベントコス → 特定イベントに参加する 初級武器コス → PLv5 + 武器使用回数4回(補助武器OK) 中級直系コス → PLv15 + CLv5 中級武器コス → PLv15 + CLv3 + ( 武器使用10回 or 武器熟練度Lv10? ) アビリティのレベルアップ(第5期情報) 当然だが、修得(Lv1)→Lv2→Lv3→Lv4→Lv5→Lv6と順番に上げる必要がある。一部コスチュームはCLv3で上位のコスを修得できるが、上位コスになったからと言ってアビリティのレベルアップの段階を飛ばすことはできない。結果的に、アビリティのレベルを上げる為に下位コスのCLvを上げなければならないことが多い。 初期配分と初期ステータス ※前期までよりも初期ステータスが低い。 第6期 初期配分 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20以上 初期ステータス 43 44 45 46 46 47 48 48 49 50 50 50 51 51 52 52 53 53 53 53? 54
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古えからの因縁。未知の世界への恐れ、若しくは憧れ。 真理の探求。或いは権力への欲望。 ただ、私達が知らなかっただけで、大勢の人が痛み、涙を流していた。 三つの世界の様々な人の想いが絡まりあって、それはやがて巨大な流れになる。まるでそれが『世界の理』であるかのように。 私達は皆、その流れに呑み込まれ散り散りに別たれるしかなかった。 だけど、遠く離れ離れになっても想いは繋がりあっている。 私も、私達が出会う人達も、誰もが心のそれを信じて戦っていく。たとえ、私達が『芝居の歯車』でしかなかったとしても。 それは友と、或いは兄弟や愛する人と。見ず知らずの少年と交わした絆。 心に刻んだ真赤な誓い。 なのは×錬金(仮) 第一話 郷愁/黒死の蝶 幼い頃のあの日、魔法という非日常と出会ってから色んなことがあった。 戦ったり、傷ついたりもしたけれど、かけがえのない仲間が――友達ができた。 中学校を出てからミッドチルダに住むようになったのは、この力をもっと知りたかったから。この力で誰かを助けたかったから。 そして鳥のように、雲のように天辺まで届くくらいに大空を舞いたかったから。 ミッドチルダと海鳴市――二つの世界を行き来するようになり、いつしか非日常も日常へと変わっていった。 ミッドでもやっぱり傷つけたり傷つけられたりはある。それでもフェイトちゃんや、はやてちゃんを始めとして多くの人に支えられてなんとかやってこれた。 そして海鳴に帰れば家族や友達が暖かく迎えてくれる。帰省の度に少しずつ変化してはいるけれど、それでも懐かしい平穏がそこにはあって――。 いつからだろう。それが無くなるなんて、ミッドチルダでの目まぐるしい生活に追われて考えもしなかった。 海鳴の景色も匂いも――。 お兄ちゃんも、お姉ちゃんも――。 アリサちゃんも、すずかちゃんも――。 私が帰れば、決して変わることなく迎えてくれるのだと信じていた。 「はーい!今日はここまで!」 号令をかける高町なのは。その前にはボロボロで座り込んでいるスバル・ティアナ・エリオ・キャロの姿があった。 いつものように訓練を終えた彼らはかなり消耗しており、表情からも疲労が窺える。 だが、そんな4人を見守るなのはの表情は柔らかいものだ。全員が毎日の訓練にもよく耐え、確実に上達している証拠だろう。 「ありがとうございました!」 一礼して撤収していく新人達。 空を仰ぐといつの間にか辺りは赤く染まっていた。 身体には僅かに疲れを感じる。 これから訓練のまとめや残務を整理して、夕食。部屋ではヴィヴィオやフェイトが待っているだろう。 それから入浴。そしてヴィヴィオを寝かしつけて、フェイトと今日のことを話したりして眠りに就く。 それが彼女の日常だ。きっともう暫くはこうして過ぎていく。 新人達を訓練し、教導官として隊長として事務系の仕事もこなす。そして任務があれば出動する多忙な日々。 レリックやスカリエッティ、戦闘機人等、懸案事項もまだまだ尽きない。 それでも、一日の終わりには充実した気持ちで眠れる自分は幸せだと思える。 願わくばもう少しだけこのままで――。 それが彼女の偽らざる気持ちだった。 「ねえ、フェイトちゃん。今頃海鳴市のみんなはどうしてるかなぁ」 入浴後、寝る前に少しフェイトと会話していると、ふとそんな言葉が出た。 二人の間ではヴィヴィオがすやすやと寝息を立てている。 「どうしたの?二ヶ月くらい前に会ってるじゃない」 「うーん。そうなんだけど、あんまりゆっくりとも出来なかったからかなぁ……」 何故そんなことを思ったのだろう。自分でもよく分からない。 「そうだね。最近は向こうのお正月やお盆に合わせて帰るくらいだし。もっとゆっくりできたらいいけどね」 「アリサちゃんもすずかちゃんも、お父さん達も元気そうだったし。エイミィさんや子供達も変わりなかった――あ、子供達はちょっと大きくなってたね」 一度思い出話に花が咲くとなかなか止まらない。自分は勿論、フェイトにとっても約6年を過ごした街なのだから当然ではあるが。 年中行事や学校のこと、家族や友達のこと。思い出すときりがないくらい。 懐かしくなってしまい、結局1時間程話してしまった。 「――そろそろ寝よっか。また、みんなと一緒に帰れたらいいね」 「そうだね……。おやすみ、フェイトちゃん」 明日も頑張ろう。 そう思ってなのはは目を閉じる。明日も多分いつもと変わらない大切な一日。 だから精一杯頑張ろう。そう心に決めて――。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――― 海鳴市の隣町である銀成市からの帰路、何の前触れも無く『それ』は現れた。 緑の皮膚、細く伸びた首が街頭に照らされ全貌が見えてくる。 その頭はトカゲのそれにしか見えない、見えないのだが――。 二足で立ち、大きさは大人と同じ。異様に鋭い手足の爪は明らかに自然の生物ではない。胸や関節は金属で固められており、赤い六角形の金属が身体に埋め込まれている。 生物と呼ぶには余りにも外観が機械的であり、機械と呼ぶには動きが生物的だ。 機械で出来た生物――いや、機械と融合した生物という表現が適当かもしれない。 動物型ホムンクルス――そんな名前など今のアリサとすずかには解る筈もなく、知ったとしてもどうでもいいことだった。 アリサ・バニングスと月村すずかは今も同じ聖祥大学に通い、小学校以来の付き合いは今も変わっていない。 今日も銀成市へ今噂の『蝶人』を見に行きたいとアリサが言い出したので遊びに出ていたのだ。結局現れなかったのだが、買い物や食事は楽しめたので二人はそれなりにご機嫌だった。 電車を降りると、そこはもう海鳴市である。辺りは既に暗く、人影もない。 それほど大きな街でもないので、中心部でなければ夜になると人がいなくなることも珍しくない。 「すずか、これからどうする?もう帰る?」 「そうだね。もう暗くなってきてるし……」 アリサは携帯を取り出し迎えを呼ぼうとする。 「あれー?繋がらない?」 携帯に向かって一人呟く。全く反応がないのだ。 「おかしいなぁ。これまでこんなことなかったのに……」 アリサは怒るよりも不思議な気持ちだった。周囲に誰もいないことが更に不安を煽る。 (何かがおかしい?) 海鳴で降りたのは自分達だけ。そういえば駅員もいなかった。 暗闇が深まる中で、二人はただ佇む。幾らなんでも静か過ぎる。 その時、何の前触れもなくそれは現れた。 どうやらトカゲは自分達を獲物と見なしたらしく、じりじりと距離を詰めてくる。 何の感情も浮かばない爬虫類の瞳は恐怖の対象でしかなかった。 「逃げよう!」 アリサがすずかの手を引いて逆方向へと走り出す。と、同時にトカゲも走り出す。 「警察!?警察でいいの!?」 半ばパニックになりながらも携帯電話を操作する。 だが、何度掛けても聞こえてくるのは無慈悲なコール音のみ。 「アリサちゃん!こっちも駄目!」 隣を走るすずかも青ざめた顔で携帯を振る。 こうなればなんとか振り切るしかない。二人は夜道を全力で走り続ける。 どれほど走ったか――振り向くとまだ追ってきてはいるものの、距離は離れていた。それほど足は速くないのかもしれない。 幸い二人とも足は速いほうだ。 「やった!これなら逃げ切れ――――!?」 一縷の希望は曲がり角を曲がった瞬間に打ち砕かれる。 そこには鏡に写したように同じトカゲの化け物が目の前に立っていた。 思わず足を止めてしまった二人を見るトカゲの口元がニヤリと引きつったように見えた。 鋭い爪を振り上げ、自分に近いすずかへと振り下ろす――。 咄嗟にアリサは飛び込むようにしてすずかを突き飛ばした。 振り下ろされた爪はアリサの左胸と腹部を貫いた。白い爪がアリサの胸から突き出す。悲鳴を上げる暇も無かった。 トカゲが素早く紅く染まった爪を引き抜く。すると、ぱあっと鮮血が飛び散った。 「いやああああああああああ!!」 すずかは鮮血が顔に降り注いだ瞬間に、頭の中が真っ白に光り全てが消えてしまった。 悲鳴を上げ、何の抵抗もなく崩れ落ちるアリサを見ているしかなかった。 後ろからはもう一匹のトカゲが迫っているだろう。 眼前のトカゲは血に濡れた爪を美味そうに舐めている。目線を既に次の獲物に捉えながら。 「アリサちゃん!アリサちゃん!!」 (すずかがまた泣いてる……。あたしや、なのはよりもずっと運動神経いい癖に、肝心なところで鈍いんだから……) 早く逃げろ、と口を動かそうとするが血のせいか上手く話すことができない。 朧気な視界にはぼんやりとトカゲが映る。爪を振りかざして最後の獲物を狙っている。 それすらもぼやけてきたアリサの目に突如として蝶が映った。 鮮やかな模様の美しい蝶ではなく、全てが真っ黒な蝶。 まるで点描画のように無数の粒子で形成された黒死の蝶。 蝶が大きく開いたトカゲの口に飛び込んだ瞬間――二つの爆音と共に蝶が爆ぜた。 トカゲの頭が吹き飛び、硬い音が地面に幾つも響く。 その音を最後に、やがて全ての感覚が無くなってきた。もう目を開くことも難しい。 そして力尽きる彼女の前に舞い降りたのは純白の翼の天使ではなく、黒い羽を羽ばたかせる蝶人――『パピヨン』。 「パピ……ヨン……?」 降臨した彼の異様さに唖然とし、すずかは思わず呟いていた。 彼はそれを聞き逃さなかった。すずかに向き直り、チッチッチと舌を鳴らしながら人差し指を振る。 「パピ・ヨン(はあと☆)――――もっと『愛』を込めて!!」 蝶人パピヨン――誰が最初に呼び出したのか、誰が最初に出会ったのか誰も知らない。だが、その存在は誰もが知っている。 所謂、都市伝説である。本人が目立ちたがりなのか人面犬やUFOよりは遭遇したという人間は遥かに多い。 その為、一年程前から現れ出した彼には数多の情報が語られている。 銀成市に住む人はほとんどが見たことがある。 東京タワーの天辺に立っていた。 だから高いところから呼ぶと現れやすい。 銭湯でもマスクは絶対外さない。 ●●●で洗面器を支えることができる。 『ロッテリや』が大のお気に入りで一日店長をしていた。 実は錬金術の秘術で生まれ変わった怪人である。 etc…………最後の項目のように明らかに嘘臭い情報も多いが、ともかく彼に関する伝説は数え上げればきりがない。 すずかはその姿を暫し呆然と見つめる。その姿は一言で表すならば『変態』。 全身を包む黒のスーツはぴったりと身体のラインを浮き彫りにし、スーツの中心はへそまで大きく開いている。 微妙に盛り上がった股間にも紫の蝶のマークがあり、彼が腰を前後に揺らすのに合わせて揺れるのはなんとも形容し難い気分になること請け合いだ。 そして最大の特徴にして彼のアイデンティティとも言われる蝶々覆面〔パピヨンマスク〕。 鮮やかな紫と赤紫に彩られたそのマスクの下を見た者はいないらしい。 このトカゲ達を吹き飛ばしたのはおそらく彼だろう。 もっとも、それが彼の黒色火薬〔ブラックパウダー〕の武装錬金、『臨死の恍惚〔ニアデスハピネス〕』であることなどは知る由もなかったが。 だが、そんなことはどうでもいい。すずかが見ていたのは彼の眼だ。その眼は暗く輝きを感じられない。 彼はすずかを、そして身体に虚ろな穴を開けたアリサを見ても表情一つ変えることはなかった。 そして、一言も発することなく、二人を見下ろしている。数秒の沈黙――。 「そうだ……!救急車!」 すずかは正気に帰って、震える指で119を操作する。 ――通じない。結果は分かっていた。それでも認めたくなかった。 こうしている間にも徐々にアリサの体温は失われていく。 「お願い……!助けてください!!」 すずかはパピヨンに救いを求めた。 こんな得体の知れない変態に助けを求めるなど、どうかしているかもしれない。手の打ちようがないことも本当は解っている。 それでも、彼女には失われていく親友を前にそれしか術が無かった。 神に祈るような気持ちで縋る言葉に、初めて蝶人は口を開いた。 一言、「断る」と。 「そんな……」 愕然とするすずかに彼は淡々と説明を始める。 「俺にはそんな義理はない。それに――その女はもう助からん」 すずかが必死に否定しようとしていた事実を、彼は実にあっさりと告げた。 他者から告げられた死亡宣告は、すずかの中で急激に現実味を帯びてくる。 「うっ……うっ……」 もう、すずかには嗚咽を漏らすことしかできなかった。 パピヨンはそんなすずかを尻目に、地に落ちた二つの正六角形の金属を拾い上げる。動物型ホムンクルスが飲み込んでいたものだ。 アリサの血に染まって二つとも型番は確認できない。 (何故、動物型ごときがこれを……?こいつらに斃される連中とは思えないが……。まあいい) 「そこの女」 パピヨンはそれを二つともすずかへと投げ渡した。 「これは……?」 正六角形のそれをすずかは不思議そうに見ている。 「核鉄〔かくがね〕だ。それには自動治癒の効果がある。そいつを心臓代わりにしている奴もいる」 紅く染まっている上に、暗くて色も識別できない。 すずかに選択肢は無かった。 アリサの胸の空洞にそれを当てて押し込む。 核鉄はすぅっと吸い込まれ、一定のリズムで微弱な金色の光を脈打ち出す。空洞を直視するのは苦しかったが、徐々に埋まっているようにも見える。 「やった!?」 すずかの顔が一瞬明るくなるが、すぐにそれは絶望へと変わる。 アリサの容態に変化は見られず、光は弱まり、やがて消えた。 「どうして……」 「その女は腹も貫かれている。それに血を流し過ぎだ」 一つでは効果が足りないのだ。それなら――と、もう一つの金属を腹部に当ててみる。 「駄目……!」 傷が塞がる様子は無く、出血も止まらない。ようやく希望を手にしたと思ったのに――。 悔しくて核鉄を握り締める手に力が入る。角に食い込んでも握る力を緩めない。既に真赤に染まった掌を一筋の血が流れた。 だが、その傷もすぐに治癒した。傷が深すぎて修復できないのだと気付く。 「どうすれば……どうすればいいんですか!?」 すずかは再びパピヨンに救いを求めた。 パピヨンはすずかを突き放すように指を突きつける。 「足掻け!」 「え……?」 「足掻け……と言った。貴様が本当にその女の命を諦められないと言うのなら……もがいてみせろ。自分の力で」 「足掻く……」 「運が良ければ……何か出るかもしれんぞ?」 「足掻く……」 すずかはその言葉を復唱する。足掻けと言われてもどうすればいいのかわからない。 やっぱり自分のできることは一つしかなかったから。 「お願い……!」 両手で核鉄を包み、アリサの腹部に押し当てながら力を込める。 それでも変化は現れない。 「お願い!!」 まだ変化は現れない。 思いを注ぎ込むように、もっと強く力を入れる。 行為は同じだとしても、それは神への祈りではない。それは彼女なりの、アリサの死に対する最大限の否定であり抗いだった。 「お願い、アリサちゃん!死なないで――――!!」 すずかの叫びに呼応するように、手の中の核鉄が紅く発光した。 その光景を蝶人パピヨンはただ見ていた。 「月夜の散歩はいいことがある――これは俺の言葉じゃあないが……」 傷女の真似事をしたようで気色は悪いが、これはそれを補って余りあるものかもしれない。 「どうやら面白いものを見つけたようだ」 そう呟きながら、パピヨンは二人を包む光に顔を歪ませた。 錬金術の粋を集めて生成された、超常の合金『核鉄(かくがね)』。 人の闘争本能によって作動するそれは、持つ者が秘めたる力を形に変え、唯一無二の武器を創造する。 それが『武装錬金』である。 次回予告 銀の風が煙る街――人々は倒れ、青年は『剣』を求め、彼の半身はそれに応える。 そして次元の海――金の瞳を持つ青年もまた、遥か遠くに在る己の片割れを探し求めていた。 『海鳴の途絶える日/Link』 目次へ 次へ